北海道と酪農は切っても切れない関係にあります。地平線まで続く大草原と、そこで放牧されている牛たちの、まさに牧歌的な風景。北海道と言えば酪農のイメージを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。それもそのはず、北海道の生乳生産量(2020年)は415万トン以上で、全国の都道府県別でダントツの1位!日本の生乳生産の50%を占めているんです。北海道はまさに「酪農王国」と言えるでしょう。
ところで、酪農はいつごろから行われ始めたのでしょうか。いくつかの遺跡から推定すると、人間が最初に乳をとるために飼った動物は、性格がおとなしくて、頭数も多く、乳がたくさんとれる山羊や羊だったようです。一方で、家畜としての牛の起源は、新石器時代(紀元前 6000~7000 年)に飼われていた、オーロックという牛の原種だと言われており、紀元前4000 年頃にはすでにメソポタミアで牛乳を利用していたことが当時の石板からうかがえます。
一方で、日本では、紀元前400年にあたる弥生時代の遺跡から家畜牛の骨が出土しています。日本で飼われていた牛は、主に中国などのアジア大陸で家畜化されたものが渡来人により持ち込まれたものだと考えられています。
日本に牛乳が伝えられたのは飛鳥時代までさかのぼり、平安初期の記録に、百済(くだら:現在の韓国)からの帰化人であ る福常(ふくじょう)が、孝徳天皇(644~654 年)に牛乳を加工した「蘇(そ)」を献上したところ天皇は大変喜び、和薬使主(やまとのくすりのおみ)という姓と乳長上(ちちおさのかみ)という職を授けられたという話が記されています。その後、都に乳牛院がおかれ、乳を搾って朝廷に献上するようになります。この頃に牛乳や乳製品を食べていたのは主に貴族でしたが、この風習は、仏教の影響により家畜の食用が禁じられることで廃れていってしまいます。
時代は下り、近世の酪農は、江戸時代に徳川 8 代将軍徳川吉宗が 1727 年(享保 12 年)に白牛 3 頭を輸入し、安房の郷(現在の千葉県)嶺岡の牧場で飼育を始めた「嶺岡牧(みねおかまき)」が発祥とされています。ここで搾った牛乳に、砂糖を加えて煮詰め乾燥させて作った「白牛酪」は、薬や栄養食品として珍重されました。しかし、牛乳はこの時代でもまだ、身分の高い人たちのものだったそうです。
それでは、北海道酪農がどれだけすごいのか、数字で見てみましょう。
令和4年(2022年)の北海道の農業産出額は1兆2,919億円で全国(9兆147億円)の14.3%を占めています。このうち畜産の産出額は7,535億円と北海道全体の産出額の58.3%を占めており、乳業・食品加工業や生産資材産業などといった関連産業とともに地域の雇用や経済を支える重要な基幹産業となっています。
酪農はというと、令和4年(2022年)の全国の乳用牛(乳用牛・生乳)農業産出額は8,844億円、このうち北海道の割合は52.7%(4,660億円)。このうち生乳の農業産出額は、4,109億円で、全国の51.9%と、両方とも、全国の半分以上を北海道で賄っていることがわかります。つまりは、日本で飲まれる牛乳や国産チーズやバターの原料の半分を北海道産で賄っているというわけですね。
さらに詳しくみていきましょう。乳用牛の飼養戸数は、令和6年(2024年)2月の時点で、5,170戸、飼養頭数は、821,500頭で、1戸当たりの飼養頭数は158.9頭となっています。 全国の飼育戸数が1万1,900戸で、飼育頭数が131万3,000頭ですから、飼育戸数は半分以上、飼育頭数に関しては6割以上が北海道で賄われていることがわかります。また、生乳の生産量でいうと、令和5年度(2023年度)の生乳生産量は417万トン。全国の生産量は732万トンなので、57%を北海道が占めていることになります。また、北海道の生乳生産量の全国に占める割合は年々増加傾向にあるようです。多いだけでなく、増え続けているというのがおそろしいですね…。
ここまでの成長を遂げた北海道酪農ですが、その歴史は浅いんです。というのも、北海道は明治以降に開拓が進んだ、日本のラストフロンティアです。開拓後に酪農がもたらされたことにより、北海道は発展していくわけなのですが、ここで、北海道の酪農の歴史をざっくりですが、ご紹介していきたいと思います。
1876年、明治時代の実業家であり政治家でもあった柳田藤吉氏の手によって、北海道根室に国内初の近代的な大規模牧場「東梅牧場」が開かれ、これが北海道酪農の礎となりました。
柳田氏が牧場を開く少し前、当時は北海道開拓使がおかれたばかりで、後に第2代内閣総理大臣となる、北海道開拓長官の黒田清隆が、北海道農業の基本方針を本格的に立て、米国から開拓使顧問、ホーレス・ケプロンを招聘しました。このケプロン氏らが中心となり、「開拓使十ヵ年計画」が策定され、これをもとに北海道農業が発展を遂げていくことになります。
そして、ケプロン氏の推薦で来日した、エドウィン・ダン氏は、真駒内で飼料作物を作り、大規模な牧場を設け、畜産農業普及の基礎を作り、「北海道土地払下規則」や「北海道国有未開地処分法」の制定により、柳田氏のような民間投資家が次々に牧場を開きはじめたそうです。これがきっかけで、今の雪印メグミルクやよつ葉乳業といった有力な牛乳・乳製品メーカーが北海道に工場を構えるようになったのです。様々な人々の尽力があったからこそ、いまの北海道酪農があるんですね。
そんな北海道の中で、もっとも多くのシェアを占めているのが、「十勝」です。十勝の生乳生産量は、令和5年度で128万トンであり、北海道全体の4分の1以上を占めています。十勝と言えば、「六花亭」をはじめとしたお菓子作りや、「よつ葉乳業」の大規模工場があることで有名ですが、やはり北海道の酪農を支えている地域なんですね。
さて、酪農で全国トップの北海道の中でさらに最大シェアの十勝ですから、「牧場で働きたいな」とおもっている方はぜひ十勝に来てほしい、いや、来るべきと言わせてください! ここからは、そう言える理由をご紹介いたします。
十勝は農業への就業支援を積極的に行っています。農業へ就業する際には初期投資が必要となるのですが、補助金及び奨励金などを受け取ることのできる町村があります。受け取れる条件・受け取れる額・内容は、町村により異なりますので、各自治体の農業担当課へお問い合わせするのが確実ですね。
また、農業の現場を実際に肌で感じて、基礎知識や技術を学び、農業に対する理解を深めることを目的に、「農業実習制度」を設けている自治体もあります。畑作は概ね4月から10月末まで、酪農は 1 年中が受入対象期間になります。仕事内容としては、実際に農家で暮らし、家族や従業員とともに農作業を行い、農業について勉強することができます。
住居については、基本的には農家への住み込みになりますが、町の施設や民間アパートなどが整備されている場合もあります。例えば、新得町、鹿追町、幕別町、足寄町では、自治体が専用の研修滞在施設などを建設し、農業技術や知識を習得するための研修事業を行っています。
十勝管内は家賃もかなり抑えることができます。一人暮らしで十分な1DKの物件であれば3万円前後で済むことができちゃいます。ちょっと広いところに住みたい、という人でも、月5万円程も出せば2DKや2LDKの部屋に住むことができます。都会と比べると賃金は少なくなってしまいますが、その分家賃や食費などの生活費がかなり抑えることができるため、生活には全然困らないんです。
北海道は全国の生乳の半分以上を担っていますが、同時に、酪農家の高齢化や戸数減少、人口減に伴う国内需要の減少傾向といった課題への対処を問われている状況にあります。それは十勝管内でも同じです。なので、十勝の酪農家さんの多くは働き手や後継者を探しています。だから、十勝の酪農家は初心者でも大歓迎!なんです。前述のように農業への就業支援も積極的に実施されていますし、「酪農の仕事に興味があるけど、初心者でも大丈夫かな」という人はぜひともご安心くださればと思います。十勝の酪農家さん方は、初心者からでも一人前になれるまで根気強く面倒を見てくれます!
最後に、本州からだとどうしても遠いイメージのある十勝ですが、なんと羽田から1時間半で行けちゃうことはご存じだったでしょうか。十勝最大の都市、帯広市には、「とかち帯広空港」という空港があり、羽田からの直行便が1日に7本程度飛んでいます。フライト時間はおよそ90分なので、空港からの移動を含めても、2~3時間があれば東京都の行き来ができちゃうんです。なので、本州にご実家がある人も安心して就業できるのは大きなメリットではないでしょうか。牧場のお仕事に興味がある方、ぜひ十勝での就農を検討してみてはいかがでしょう。
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