北海道の広大さは誰しもが知る通りかと思われますが、その面積は、日本の面積の約20%を占めます。そんな北の大地を活用することで、北海道は「酪農王国」と呼ばれるほどに急成長を遂げてきました。
数字で見るとその大きさは圧倒的です。北海道は全国の1/4の農地を有しており、食料自給率はカロリーベースだと200%を超えます。そんな環境なので、乳牛の餌や寝所となる牧草地も、約50万ヘクタールも耕すことができるのです。
生乳業界団体のJミルク(東京)によると、2024年度の生乳生産量が741万3,000トンに達する見通しになるそう。これは、1月時点で予測された733万トンから上方修正されたもので、前年度比で1.2%の増加を見込んでいます。この修正は、昨年の猛暑からの生産回復が進んだことや暖冬の影響を反映しているそうです。
一方で、2023年度の北海道における生乳生産量は391万トン余りで、都道府県別でダントツの1位です。日本の生乳生産量の半分近くを占めています。日本で飲まれる牛乳や国産チーズやバターの原料の半分を北海道産が担っているんですよ。
ちなみに、ホクレンの発表によると、昨年度、北海道内で生産されホクレンが集荷した生乳の量は391万3,647トンで、前年度比で12万4,000トン、約3%の減少。生乳生産量の減少は2年連続であり、400万トンを下回るのは2020年以来、4年ぶりです。
地域別のデータを見ると、ホクレンの各支所ごとに以下のような結果が報告されています。
ここまで成長を遂げた北海道の酪農ですが、その歴史はそこまで深いものではありません。というのも、北海道は日本政府によって明治以降に開発されており、それまで北海道の地で暮らしていたアイヌの人々が狩猟採集を中心とする民族であったため、開拓後に酪農がもたらされることになるからです。そこから北海道は急速に発展を始めます。
一方で、日本において、生活の糧としての酪農が定着し、牛専門の現在の「酪農」としてはじまったのは、江戸時代、八代将軍・吉宗の時分に、千葉県南部(現南房総市)に設置された「嶺岡牧(みねおかまき)」からだそうです。
そして時は流れ、1876年には、明治時代の実業家であり政治家でもあった柳田藤吉氏の手によって、北海道根室に国内初の近代的な大規模牧場「東梅牧場」が開かれ、これが北海道酪農の礎となりました。
柳田さんが牧場を開く少し前、当時は北海道開拓使がおかれたばかりで、北海道開拓長官の黒田清隆(後の第2代内閣総理大臣)が、初めて北海道農業の基本方針を立て、米国から、アメリカ合衆国政府の農務局長であったホーレス・ケプロンを、開拓使顧問として招聘しました。ケプロンらが中心となり「開拓使十ヵ年計画」が策定され、これをもとに北海道農業が発展を遂げていきます。
そして、ケプロンの推薦で来日した、獣医師のエドウィン・ダンは、真駒内で飼料作物を作り、大規模な牧場を設け、畜産農業普及の基礎を築き、「北海道土地払下規則」や「北海道国有未開地処分法」の制定により、前述の柳田さんのような民間投資家が次々に牧場を開きはじめたそうです。これがきっかけで、今の雪印メグミルクやよつ葉乳業といった有力な牛乳・乳製品メーカーが北海道に工場を構えるようになったのです。
北海道酪農の発展の要因として、広大な土地に大規模な牧場や牧草畑を作れたことが挙げられるでしょう。そのおかげで、今では北海道全体に酪農地帯が広がっています。ですが、北海道内でも、地域によって気候も風土も違うため、酪農においても、地域ごとに特徴があったり、明確に適した場所があったりします。道北・道東では、その冷涼な気候を生かして、酪農が盛んに行われています。
道東は、根釧台地(こんせんだいち)と呼ばれる火山灰に覆われた広い大地です。火山灰は保水力に乏しいため、稲作や畑作は適していませんが、牛が好む低温で冷涼な気候であり、夏でも気温が低くて涼しいので、高温になると腐りやすくなる牛乳や乳製品を扱うのに向いているという大きなメリットがあります。
道東の中でも十勝は、酪農地域として道内でも最大のポテンシャルを秘めていました。十勝の強さは、「日本の食料基地」とも呼ばれるように、酪農だけでなく畑作も盛んな点です。北海道の食料自給率は200%でしたが、十勝はさらにすごいんです。
そのスケールも驚きで、食料自給率をカロリーベースで単純計算すると、1200%を超えるほど。文字通りの”農業王国”で、日本の食料供給基地として重要な役割を担います。
年間450万tの食料を生産し、日本の食料消費量の約12%を占めるほどなんです。そして、十勝のJA(農協)の農畜産物の取扱高は約3906億円に達し、その域内経済効果は約3兆円(帯広信用金庫調査)とも言われているんですよ!
牛の餌や寝所となる牧草やデントコーンを栽培できる点でも、根釧台地の釧路・根室よりもアドバンテージがあり、その結果、北海道の生乳生産量が全国の生産量の50%以上を占める一方で、その中でも十勝のシェアは高く、酪農においても北海道全体を支えているわけです。
十勝の年間農業産出額は約3906億円(2023年度)であり、畜産はそのうちの約半分を占めています。十勝で採れる生乳は年間約129万トン(2024年度予想)で、25mのプールに換算すると、なんと約4000杯弱分にもなります。これらの生乳は飲用や加工用に出荷され、スイーツやチーズ、バターなどの乳製品となり、「十勝産」の乳製品として、全国の食卓に並ぶのです。
そんな十勝には、搾乳体験やファームステイができる牧場もあり、命や食の尊さを学ぶことができます。
北海道、上川郡は新得町にある「友夢牧場(ゆうむぼくじょう)」では、酪農体験を実施しています。乳牛をはじめとした動物とのふれあいや、人間と乳牛が共に暮らすフィールドを体験することで、酪農家さんの生き方や思い、食やいのちの尊さを五感で感じることのできるようなプログラムになっています。
こちらでの酪農体験は、酪農教育ファームとして認証を受けた活動の一環で、子どもから大人まで安心して活動できるよう、安全や衛生に留意して、酪農体験の受入れや学校への出前授業などを行ってるそうです。ホームページには酪農体験の参加動画も掲載されているので、ご興味がある方は是非ご覧になってください。
北海道・池田町にある「NPO法人 自然体験学校とかち校」では、様々な個人向け体験プログラムを実施しています。新鮮な牛乳を使った、バター・アイスクリーム作りや、本物の羊の毛を使ったマスコット作りなど、美味しい・楽しいアクティビティに参加することができます。そのほか、ジャガイモ掘りやハスカップ収穫、広大な畑で農家さんと一緒に野菜の受付、手入れ、収穫などを体験できる「農業ビジット体験」と、農作業を通して自然の恵みと触れ合うことのできる体験も人気となっています。
自然あふれる北の大地で、「食」や「命」について五感で学ぶことのできる体験アクティビティは、子どもはもちろん、大人にとっても充実した時間になること間違いなしです。北海道に訪れた際には、ぜひ食の宝庫・十勝に遊びに来てみてはいかがでしょうか。