牛乳や乳製品は、わたしたちの身近にあって、生活になくてはならないものですが、そうした製品の生産に関わる、「酪農」や「乳業」については、あまり詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、酪農の仕事について解説。スーパーやコンビニに様々な乳製品が並ぶ、いつもの光景の裏には、酪農家さんたちの頑張りがあることを知っていただければ、と思います。
「酪農」とは、ざっくり言うと、牛を飼育し、牛乳やチーズ、バターなどの原料となる「生乳」を生産する畜産業のことです。そもそも、「酪農」の“酪”という字は、乳製品のことをさす言葉なんです。現在、日本には酪農経営17,700戸あり、1,370,000頭の乳牛が飼われており、年間7,334,000tもの生乳が生産されています。
乳牛を育てて乳を搾り、生乳を集めて提供するまでの農業が「酪農」ということでした。では「乳業」はなんなのかというと、酪農家で生産された生乳を牛乳・乳製品などの製品にして販売する事業のことをさします。つまり、スーパーに並んでいる牛乳や乳製品ができるまでには、「酪農」と「乳業」という二つの仕事がかかわっているのです。
酪農で生産された生乳は乳業工場に集められます。集められた生乳にはまず、ホモジナイズ(均質化)と呼ばれる処理が行われます。これは、クリームの塊をなくすために脂肪球を細分化する作業です。その後、殺菌や滅菌処理が行われ、そのようにしてできるのが、いわゆる「牛乳」です。ここから、何も足されず、何も引かれていない牛乳が”成分無調整”と呼ばれるものです。
一方、生乳から水分を取り除いて濃厚にしたり、脂肪分などを取り除いた「成分調整牛乳」、生乳または乳製品を原料とする「加工乳」、コーヒーやフルーツの成分、鉄分やカルシウム分などを強化したものなど、乳製品以外のものを加えた「乳飲料」などといった種類があります。さらには、生クリーム、チーズ、バターなど、その他の乳製品にするためにさまざまな加工が行われます。
牛乳・乳製品の原料となる生乳の価格を「乳価」と呼ぶのですが、乳価は、酪農生産者(団体)と乳業メーカーの合意によって決められます。合意形成の過程は「乳価交渉」呼ばれるのですが、この交渉は、生乳需給状況、市場動向や経済環境、乳業者や酪農生産者の経営状況など、さまざまな要因を総合的に勘案して行われます。
それら要因は、乳業メーカー、酪農生産者団体ごとに異なる要因や条件があるため、合意される結果(乳価)は取引ごとに変化します。ですが、大筋では業界全体で同じような傾向が踏襲されます。
酪農の仕事は一言でいうと、牧場で乳牛を飼育し、搾乳して生乳を生産する仕事です。美味しい牛乳を生産する為には、乳牛を健康的に管理し育てることが最も重要になります。そのために、酪農家は、毎日決まった時間に牛舎の掃除や敷き藁の取り替えを行い、乳牛にとってストレスの少ない環境を整え、健康を管理するのです。
また、牛という動物が相手ですので、酪農家は1年365日休みなく世話をし続けなければなりません。牛は規則性を好む動物なので、毎日決まった時間に決まった作業を繰り返します。牛舎の掃除、敷き藁の取り替え、給餌、搾乳、子牛の哺乳・世話、牧草の収穫など、酪農の仕事は多岐にわたる上、乳牛の人工授精、出産、若い牛の入れ替え、病気の予防や治療など命と向き合うような重大な仕事もあります。
これまで「酪農」について紹介してきましたが、もう一つ、似た言葉に「畜産」というものがありますね。では、酪農と畜産は何が違うのでしょうか。
簡単に言うと、畜産は牛や豚、鶏といった家畜を飼育し、肉や卵を生産するほか、副産物で衣類の素材となる毛皮などを利活用することをさします。一方、酪農は牛を飼って牛乳や乳製品をつくるのが主な仕事です。つまり、畜産の一部門が酪農なんですね。
家畜を飼育する産業の畜産では、牛や豚、鶏、羊などの動物を育て、食用の肉や卵、乳のほか、副産物の毛皮などを生産しています。畜産は農業に分類されており、日本の食などを支える根幹の大事な一次産業です。
畜産には、自然の草や水などを求めて家畜と一緒に移動する遊牧型と、牛舎などを設置し、年間を通して同じ場所で飼育する定着型があります。日本では定着型が主流です。牧場では、家畜の飼料となる農作物を自分たちで栽培しているところが多いようです。
また、乳を搾る乳用牛と、食用の肉を生産する肉用牛は種類が異なります。国内の乳用牛は、主にホルスタイン種と呼ばれる牛が使用されています。皆さんがよく知っている白と黒の牛ですね。国内で飼養されている乳用牛の99%はこのホルスタイン種となっております。
これに対し、肉用牛は3種の区分があります。黒毛和牛をはじめとする「肉専用種」、ホルスタイン種の雄である「乳用種」、黒毛和牛の雄とホルスタイン種の雌を交配させた「交雑種(F1)」です。このうち、「肉専用種」は、文字通り牛肉を生産する目的で飼養されています。「乳用種」は、酪農経営で副産物とされる雄牛で、生乳を生産する雌牛と違い、牛肉の生産向けに肥育されています。「交雑種」は肉質の向上を目的に交配させた牛で、肉専用種よりも成長が早いため生産コストの引き下げにつながっています。
ここまで酪農や乳業の関係について紹介してきました。最後に、実際に酪農の現場、「牧場の仕事」の1日はどのようなものなのか、簡単にお伝えしたいと思います。
まず牧場に共通する仕事の特徴として、朝がとても早いです。多くの牧場では、朝の5時頃に起床をして、朝食前に業務を開始します。そこから、6時頃に牛舎の掃除やエサやりをおこない、朝食をとったのち9時に搾乳が行われます。10時からは子牛の世話(哺乳、エサやりなど)と牛舎の掃除をし、11時からやっとお昼休みになります。
この間にタンクローリーが到着し、集乳作業が行われますが、基本的に昼休みは長く、夕方までとなります。16時半から再び作業開始し、牛舎の掃除、エサやり、寝藁(牛の寝床)を敷くなどの作業。夕食ののち、18時に再び搾乳、子牛の世話、牛舎の掃除を行って、20時半ごろにその日一日の作業が終了となります。
これだけでも十分大変そうなものですが、酪農の仕事で重要なのは「牛の体調管理」です。牛は当然のことながら動物ですから、食べているエサの量などから毎日牛の体調をチェックしながら、それに合わせた対応をとっていかなければなりません。
また、それ以外にも牛舎の汚れは病気の原因につながるため、毎日の掃除も欠かせません。また上に書いたこと以外にも、機械のメンテナンスや堆肥作り、牧草の育成、放牧をおこなうこともあるほか、牛の病気や出産などで突発的な対応事項が起こったときには、時間にかかわりなく対応しなければなりません。
そのため、酪農の仕事は何よりも「年中無休」の職業なのです。そんな酪農家の方々の頑張りのおかげで、私たちの食卓に牛乳や乳製品が並んでいるのですね。