「もっと若いときからここで働きたかったなって思うくらい、いろんなことを任せてもらえて鍛えられるんですよ」。こう職場の魅力について教えてくれたのは、帯広市内の介護複合施設「奏〜かなで〜」でケアマネージャー(介護支援専門員)として働く斉藤ちさとさん。人材不足が深刻化する介護の現場に身を置いて20年以上。近頃よく耳にする《人間力》が磨かれるという自慢の職場にお邪魔して、“仕事のホンネ”を聞かせてもらいました。
「地域に根ざした福祉を創るために」をコンセプトに、帯広市・音更町・更別村と連携を図り福祉事業を展開。高齢者や認知症患者のためのグループホーム、多機能ホーム、地域密着型介護老人福祉施設、小規模多機能型居宅介護事務所、サービス付高齢者向け住宅などを開設する。そのひとつが、帯広市内の自然に恵まれた環境にある複合施設「奏〜かなで〜」。
「ケアマネージャーである私の仕事は、まず利用者さんがどんなサービスを必要としているのかを見極めて、その方に合ったケアプランを作成すること。そのうえで介護保険サービスを提供するために事業者との連絡・調整だったり、手続きを行います。もちろんご本人ともお話ししますが、利用者さんの多くは認知症の方なので、同時にご家族の要望もお聞きして決めていきます。ご本人の希望が最優先ですが、ご家族の意見も無視できませんので、両方のバランスを考えながら話を進めていく感じです。調整力が求められる仕事ですね」(斉藤さん)
利用する本人の意思と家族の気持ち、どちらも大切にしているという斉藤さん。その根っこにあるのはやはり、“人対人”のつながり。利用者の命を預かり、日々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を左右するヒューマンサービスだからこそ、利用者と家族の関係性や心のなかを観察するようによく見て、数ある選択肢の中からベストな提案をしていく。
「ご家族の方が介護疲れを感じてしまうケースってよくある話です。とくに認知症の方をケアするご家族は、精神的にも肉体的にも本当にハードなんです。介護というのはご本人だけでなく、ご家族もサポートしていくことが大切。私たちがその負担を少しでも減らせるように、と思っています」
「奏〜かなで〜」が標榜する「小規模多機能型」というのは他の介護サービスとどう違うのでしょうか。親の介護問題に片足を突っ込みつつある40代のライターが前のめり気味に聞いてみたところ……。
「私たちの施設では小規模多機能型と呼ばれるサービスを提供していて、〈通い〉〈訪問〉〈宿泊〉と3つのサービスを一緒に提供できるのが特徴です。通常は〈通い〉がメインですが、必要に応じて訪問したり、ご家族の負担を軽減するために泊まりのサービスも行っています。たとえば、ご家族がちょっと疲れているとき、遠方に出かけなければならないときなどに短期間泊まっていただいたりしています。
他のサービスとの違いは、すべてのサービスが同じスタッフによって提供されることでしょうか。常に“知っている顔”がそばにいるわけです。これは大きな安心感になると思います」確かに顔馴染みの担当者のほうがリクエストしやすいし、より信頼関係が深まりそう! 「家で暮らしたいけど、時々は泊まりのサービスを使いたい」。そんなときに柔軟に寄り添ってくれるのが小規模多機能型の強み。もう虎に翼状態なのでは……。
「小規模多機能は地域に根ざしたサービスなので、近隣に住んでいる方が利用しやすいように設計されています。それに地域のことをよく知っているスタッフが対応するので、ご家族も含めて安心して利用いただけると思います。」
でも、介護の仕事って大変なんでしょ?―――。きっと、こんなイメージをもっている方も少なくないはず。介護福祉士としては20年以上のキャリアを持つ斉藤さんですが、なぜ“茨の道”とも呼ばれる介護業界を志したのでしょうか?
「実は最初から介護の道に進んだわけではなく、高校卒業後は製造業で働いていました。でも、その仕事が自分に合わないと感じていて……。ちょうどその頃におばあちゃんが入院したんです。それがきっかけでヘルパーの資格をとって働き始めたんです。自分がやりたくて始めた仕事だったので、とても楽しかったですね。当時は若かったですし、何でも新鮮で充実していました」
訪問介護員(ホームヘルパー)として数年働いたのち、介護福祉士、ケアマネージャーの資格も取得したという斉藤さん。介護の仕事の中で特に難しいと感じる点は何かと伺うと……。「やはり利用者さんの状況が日々変わることです。認知症の進行が早い方や、急に体調を崩される方もいますし、その都度対応を考えなければなりません。ご家族の不安も大きいですし、サービス内容を頻繁に見直す必要があります。そのためにも、日々の観察が重要。スタッフ全員が利用者さんの状態をしっかりと把握しておくことで、早めに対策できるようになりますから。ご家族との連絡も密に取って、何かあればすぐに相談できる体制を整えています」
「職場の人間関係はとても良いですね。これは盛ってませんよ、本音です(笑)。スタッフ同士が協力し合って、働きやすい環境を作っているんです。それに、小規模多機能だからさまざまなサービスを提供できるので、利用者さんとの関係性も深まります。私たちの職場には子育てしながら働くスタッフも多く、みんなでサポートし合う雰囲気があります。私自身も3人の子どもたちを育てながら働いていますが、シフトの面など職場の理解があるので続けられています。柔軟な働き方ができる環境って言っていいんじゃないかな」
「小規模多機能という形態なので、いろいろな経験ができます。この経験を積めば、幅広いスキルが身についてどんな施設でも働ける人材になると思いますよ」
斉藤ちさと 介護支援専門員 主任
小規模多機能型居宅介護事業所奏~かなで~
1977年、北海道・帯広市生まれ。祖母の介護をきっかけに老人福祉に興味を抱き、訪問介護員(ホームヘルパー)の資格を取得。ヘルパーとして働きながら専門学校に通い、25歳で介護福祉士となる。その後、出産・育児のため一時は介護の職を離れるも復職し、現在は家庭と仕事を両立。現在はケアマネージャーとしても活躍する。「奏〜かなで〜」にてケアマネージャーとして勤務する。