もっと寒い場所で、自分の力を試したい—。ネパール南部チトワンの温暖な町から飛び出した(20歳)は、白銀の大地・北海道に憧れ続けてきました。「雪景色を見た瞬間、ここが私の第二の故郷になると思ったんです」と笑う彼女は、社会福祉法人「元気の里とかち」で今日も利用者さんの暮らしを支えます。文化も気候も異なる環境で、やさしさを胸に咲き始めた介護の夢。その素顔と未来図をのぞいてみましょう。
「地域に根ざした福祉を創るために」をコンセプトに、帯広市・音更町・更別村と連携を図り福祉事業を展開。高齢者や認知症患者のためのグループホーム、多機能ホーム、地域密着型介護老人福祉施設、小規模多機能型居宅介護事務所、サービス付高齢者向け住宅などを開設する。
パリヤル ラスミ シングさん
2004年10月生まれ。ネパール・チトワン出身。家族が携わる介護NGOでボランティアを経験し、人を支える喜びを知る。高校卒業後、岐阜県の日本語学校で1年間学びながら JFT Basic と介護技能評価試験に合格。2025年3月に来道し、4月から社会福祉法人 元気の里とかちへ。現在は小規模多機能型居宅介護施設「清流の里」で介護職員として勤務。好きなものは辛い味噌ラーメンと自家製スパイスカレー、休日の公園散歩。
「子どものころから家族の介護を手伝っていました。だから“人の役に立つ仕事”は自然な選択でした」
地元のNGOで高齢者支援に関わった経験が、シングさんの背中を押しました。日本語学校では介護概論や車椅子操作、移乗介助を学び、「利用者さんを“家族”と思って接する」姿勢を徹底的に身につけたといいます。
見学のときに驚いたのは、スタッフ同士が冗談を交わしながら自然に連携する姿。「外国人の私でも緊張しない空気でした」。
実際に働き始めると、言葉に詰まった瞬間ホワイトボードへイラストを描いて説明してくれる先輩や、「困ったらすぐ声をかけて」と不安を受け止めてくれる先輩。シングさんが「相談しやすい会社です」と胸を張る理由が、そこにあります。
「利用者さんの気分は天気みたいに変わります。でも、優しい言葉と笑顔で寄り添えば、不安はすぐ和らぎます」
初めての冬は氷点下の空気に驚いたものの、「ラーメンで身体を温めると幸せです」と満面の笑み。休日は動画を観たり、公園を散歩したり、友達とスパイスカレーを作って過ごします。「ネパールの平地は熱帯で、山岳地帯は雪もふります。育った町は暑く、涼しい北海道に憧れていたんです。それでも、予想以上の寒さにびっくりしました。来たのは3月。来年の冬が少しだけ怖いです。でも、十勝は人も街もやさしいから、大変なことはありません!本当です」
仕事で一番力を入れるのはコミュニケーション。「もっと日本語を勉強して、利用者さんと冗談を言い合える関係になりたい」。来月からは日本語検定「N2」合格を目指しつつ、介護福祉士の資格取得の勉強が開始します。
「資格を取って、専門的に利用者さんをサポートしたいです」。将来はケアマネジャーとして在宅介護の提案にも関わり、自国ネパールの高齢者支援にも知識を還元することが目標です。「でも、このまま元気の里で経験を積んで、施設を支える人材に成長したいという想いもあるんです」と将来性に期待できる一面も……。
「日本の介護現場は安全で、人も親切です。日本語の勉強は大切だけど、怖がらず会話してみてください。分からなくても、笑顔と“助けてください”で必ず伝わります。思い切って挑戦しましょう!もし不安であれば、日本語を猛勉強してください。そして、コミュニケーション(会話術)能力を磨いてくるとすごく生かせますよ」
寒さを選び、遠い北国で咲かせたやさしさの花。シングさんの言葉と笑顔は、今日も十勝の青空にあたたかな色を添えています。今日も明日も十勝晴れ!