介護の仕事に年齢制限はありません。「やりたいときが始めどき」という言葉の通り、ある程度の年齢を重ねていても転職しやすい業界であり、それまでの経験を生かして長く働ける現場でもあります。未経験でも業務を通じてスキルを身につけ、次のステップアップを目指せる。そんな介護の世界に30歳で飛び込んだ神藏恵梨さん。
「地域に根ざした福祉を創るために」をコンセプトに、帯広市・音更町・更別村と連携を図り福祉事業を展開。高齢者や認知症患者のためのグループホーム、多機能ホーム、地域密着型介護老人福祉施設、小規模多機能型居宅介護事務所、サービス付高齢者向け住宅などを開設する。そのひとつが、帯広市内の自然に恵まれた環境にある複合施設「奏〜かなで〜」。
神藏さんが介護の道を選んだのはちょうど30歳のとき。社会人経験を10年以上積み重ね、仕事から得る学びや気付きも多かったはず。働く女性として一つの転換期を迎え、さまざまなキャリアの選択肢があるなかで、どうして介護職を選んだのでしょうか。
「30歳の頃は、自分はこのまま結婚しないだろうなと思っていたんです。そうなると、一人で生きていくために何か“手に職”がないといけないなと。当時の仕事も楽しかったけれど、やはり将来を考えると不安に思うところがあって。そんなとき、介護職に携わる身内の存在に背中を押されてやってみようかなと。深く考えるほど知識もなかったので、まずはやるだけやってみようという気持ちで飛び込みました(神藏さん)」
結果として、この決断が神藏さんの人生の大きな転機に。未経験者にとって介護職は肉体的に、そして精神的にも負担が想定される仕事。神藏さんの場合は、介護利用者の生の声が仕事へのモチベーションになったといいます。
「当初は『大変な仕事だよ』『あなたにはできないよ』なんて周囲に心配されることもありました。ただ、実際に働いてみるとすぐに楽しさを感じることができたんですよ。というのも、何か些細なお世話をするだけで利用者さんから『ありがとう』と感謝の言葉をもらえたり、笑顔が生まれたりする。それが仕事のやりがいになります。特にお年寄りの場合は反応がストレートで、顔をほころばせて喜んでくれるとこちらまで嬉しくなるんです。自分が誰かの役に立っていると肌で実感できる仕事って、そう多くはないですよね」
当初は資格取得のために働きながら学校に通い、仕事と勉強の両立に悪戦苦闘したのだとか。それでも介護福祉士という国家資格を手にしたことで携わる業務や経験値が増え、それがよい発奮材料に。また、好循環が生まれてプライベートにもとある変化が。
「実は職場の同僚と結婚したんです。夫は介護施設で調理師として働いているので家事を分担していますし、私が夜勤のときも協力してくれるのでとても助かっています。職種は違うけど、お互いの仕事に理解があるのは心強いなと。疲れたとき、落ち込むときにも気持ちを共有できるので、家庭とのワークバランスは取れているほうだと思います。あとは、好きなK-POPアーティストの“推し活”も励みになっています(笑)」
介護という仕事を通じて、神藏さんは人生観が変わったと感じているようです。
「利用者さんとの密な交流を通じて、それまでよりも命の尊さを感じるようになりました。介護の仕事では利用者さんの生活をサポートするだけでなく、その人の人生に寄り添うことが求められます。こうした経験を積むなかで、自分の家族や友人との関係ももっと大切にしなくちゃいけないなと思うように。大事な人たちと過ごす時間を意識的に持つように心がけています」
「“資格があれば続けられる仕事”と思われがちですが、介護の現場の正解はひとつではないので、知識だけに頼らず一人ひとりをよく見てケアするように心がけています。私は介護従事者としてはまだまだ勉強中の身。自分自身をブラッシュアップしていかなければと。具体的には、ケアマネージャーの資格を取るつもりです。受験資格に必要な実務経験を積んできたので、そろそろチャレンジしてみようかなって。やはり資格を取ることで新たな視野も広がると思うので、がんばりたいです」
介護の仕事を通して新しい自分を発見し、さらなる成長を続ける神藏さん。最後にこれから介護職を目指す求職者へのメッセージをお願いすると、こう答えてくれました。
もしも転職に不安・迷いを感じている方がいたら「壁にぶつかることもあるけれど、ヒトとの関わりが好きならずっと続けられる仕事だよ」と声をかけてあげたいと語ります。
『「お年寄りが好きで、ヒトのために働くことに喜びを感じるヒト」。あとは利用者さんの命を預かるという責任感と、相手の気持ちをいかに汲み取れるかというコミュニケーション能力が求められます。スタッフ同士の連携がサービスに影響するので、職場でのコミュニケーションは欠かせません。仕事は大変な部分もありますが、やりがいは本当に大きいです。若い世代にもぜひ挑戦してもらいたいですね』
神藏恵梨 介護福祉士
小規模多機能型居宅介護事業所奏~かなで~