「税理士=決算書と申告書を作る人」。もし、そんなイメージを持っているなら、本連載はその考えを覆すかもしれません。信用金庫勤務から税理士業界で35年以上、数多くの中小企業の決算と向き合ってきた現役税理士が、経理の本質、税理士業界の現実、そしてDX時代の未来像を、正直に語ります。
1952年生まれ。北海道栗沢町出身。札幌南高校、小樽商科大学卒。北海道内信用金庫で11年間勤務後、会計事務所を経て1988年に税理士として独立開業。35年以上にわたり中小企業の決算・財務・経営に携わり、「正しい会計と経理こそが経営判断と信用力を支える」という信念のもと、事業承継や経営改善を支援。税理士・中小企業診断士・M&Aスペシャリスト。主な著書 | 『なるほど正しい事業承継』『失敗しない事業承継の知恵』『後継者が育つ“よき経営者”の役割』
会計ソフトや業務アプリの普及によって、経理会計事務は以前と比べて大幅に効率化されました。帳簿と電卓、手計算によって行われていた集計作業は、パソコン会計ソフトによって瞬時に処理されるようになり、さらには、勘定科目や仕訳の知識も手間も不要になるなど会計事務作業の負担は確かに軽減されています。
しかし、ここで一つ立ち止まって考える必要があります。これで経理は十分に省力化されたと言えるのでしょうか。
現実には、多くの中小企業で、パソコン会計は「電卓をパソコンに置き換えただけ」にとどまっています。
仕訳入力の前後には、依然として紙の請求書や領収書が存在し、手入力や転記作業、紙の保存や印刷といった業務が残っています。省力化が進んだように見えても、経理担当者の忙しさが大きく変わっていない企業も少なくありません。

経理会計事務の手間やコストを減らすこと自体は、決して間違いではありません。しかし、もしもその結果として、
「経理担当者の人数と知識を、できるだけパソコンに置き換える」ことだけが目的になっているとしたら、それは本来の経理の姿とは言えないでしょう。
必要なのは、単なる省力化ではなく、省力化を通じて経理の力を高めることです。
私はこれを、経理の「増力化」と考えています。
経理の増力化とは、定型的・反復的な業務をパソコンや各種業務アプリに代替させることで、経理担当者がより付加価値の高い業務に時間と力を使えるようにすることです。
経理担当者が担うべき役割は、単に正確に処理することだけではありません。数字の動きに違和感を覚え、「この処理で本当に良いのか」「何かリスクが潜んでいないか」と気づき、必要に応じて専門家に相談することも重要な役割です。
そうした役割を果たすためには、日々の処理に追われ続ける状態から脱却しなければなりません。そのための手段が、省力化であり、デジタル化です。

近年、クラウドサービスや多様なデータ連携が一般化しつつあります。
会計ソフトは、単に仕訳を入力する道具から、経理業務全体をデジタル化し、バックオフィスを支える存在へと変わりつつあります。
金融機関の預金口座やクレジットカードの利用明細、販売管理や仕入管理、給与計算などの業務データが連携され、自動的に会計処理へとつながることで、手入力の手間は大きく減ります。
それと同時に、入力ミスや重複作業のリスクも低減されます。
こうした仕組みは、経理担当者を楽にするためだけのものではありません。経営者が正確でタイムリーな情報を手に入れるための基盤でもあります。

省力化によって生み出された余力は、経理担当者が専門知識や周辺知識を身につけるために使われるべきです。
そして、その知識をもとに、経営者の判断を支える非定型的・専門的な業務に関わることが、経理の新たな役割となります。
経理は、単なる事務部門ではありません。経営の現実を数字で示し、意思決定を支える存在です。
税理士を目指す人には、経理の増力化を支援できる存在になってほしいと思います。経理を単なる処理業務としてではなく、経営を支える力として捉えること。その視点を持つことが、これからの税理士には欠かせません。
次回は、「経理にもDXの波が襲ってくる」をテーマに、経理DXの全体像について、元原稿に沿って整理していきます。