「税理士=決算書と申告書を作る人」。もし、そんなイメージを持っているなら、本連載はその考えを覆すかもしれません。信用金庫勤務から税理士業界で35年以上、数多くの中小企業の決算と向き合ってきた現役税理士が、経理の本質、税理士業界の現実、そしてDX時代の未来像を、正直に語ります。
1952年生まれ。北海道栗沢町出身。札幌南高校、小樽商科大学卒。北海道内信用金庫で11年間勤務後、会計事務所を経て1988年に税理士として独立開業。35年以上にわたり中小企業の決算・財務・経営に携わり、「正しい会計と経理こそが経営判断と信用力を支える」という信念のもと、事業承継や経営改善を支援。税理士・中小企業診断士・M&Aスペシャリスト。主な著書 | 『なるほど正しい事業承継』『失敗しない事業承継の知恵』『後継者が育つ“よき経営者”の役割』
経理の重要性は理解していても、実際の中小企業の経理現場は、決して理想的な環境とは言えません。税理士として長年、多くの企業の内部を見てきましたが、経理現場の厳しさと負担の大きさは、想像以上だと感じることが少なくありません。
従業員数50人から100人規模の会社でも、総務・経理・人事・労務を合わせて3〜5人程度で回しているのが一般的です。さらに、従業員20人未満の企業では、経理担当者が1人、あるいは事務担当がゼロというケースも珍しくありません。
こうした企業では、経理担当者が、請求書の発行、支払処理、現金管理、給与計算、社会保険手続き、会計ソフトへの入力まで、あらゆる業務を一手に引き受けています。しかも、その多くが十分な専門教育を受けないまま、経験で学んで実務を担っているのが現実です。

経理を含む間接部門は、しばしば「バックオフィス」と呼ばれます。
製造や営業のように直接売上を生み出す「フロントオフィス」と比べると、どうしても裏方という印象を持たれ、経営者の関心や関与が薄くなりがちです。
しかし、バックオフィスの業務は、どれ一つとして欠かすことができません。経理が止まれば、支払いが滞り、給与が払えず、会社の信用は一気に失われます。
それにもかかわらず、経理は「できて当たり前」「問題が起きて初めて注目される」仕事です。
ミスや遅れは目立ちますが、何も起きていないこと自体が成果であるという点は、なかなか評価されません。

もともと人数の少ない中小企業の経理現場で更に大きな問題となるのが、属人化です。
「この人しか分からない」「休まれると業務が止まる」という状態は、決して珍しくありません。
属人化が進むと、その経理担当者の我流や固有のやり方になって業務の引き継ぎが難しく、ミスがあっても気づきにくくなります。また、本人にとっても、休みづらく、精神的な負担が大きくなります。
経理が属人化している企業ほど、実はリスクが高い。この点を、経営者が十分に認識していないケースも多く見受けられます。
すべての経理担当者に、高度な専門性や完璧な対応を求めるのは現実的ではありません。中小企業の経理には、「できる範囲で、確実にやる」視点が重要です。
そのうえで、経理担当者に求められる役割は、以下です。
「あれ、これで良かっただろうか」という小さな違和感に気づけることが、リスクの顕在化を未然に防ぎます。
税理士が、その小さな疑問や違和感を持ったときに質問しやすく、迅速に丁寧に助言指導してくれる頼れる存在になることが大切です。

税理士を目指す人に、ぜひ知っておいてほしいのは、中小企業の経理現場は決して余裕がある場所ではないということです。
制度論や理論だけを押し付けても、現場は回りません。経理担当者がどれだけ多くの業務を抱えているかを理解したうえで、「何を任せ、何を一緒に考えるのか」を見極めることが、税理士には求められます。
税理士は、経理担当者の代わりにすべてをやる存在ではありません。しかし、経理担当者が安心して仕事ができる環境をつくるための、最も身近な支援者になることはできます。
経理や経営の現場を知らずに、良い税理士にはなれません。数字の裏側にある業務の現実、人の動き、会社の事情を理解してこそ、経営に役立つ助言ができます。
中小企業の経理現場には企業を支える情報が詰まっています。
次回は、「経理は変わったのか?変わらない本質、変わる手段」をテーマに、会計の本質と、時代による変化について考えていきます。