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更別村
10 views 2026-07-09
7348%では語れない 更別村という生き方
十勝のひと

7348%では語れない 更別村という生き方

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全国平均38%。北海道平均216%。そして、更別村7348%。食料自給率の数字だけを見れば、日本でも群を抜く農業の村だ。さらに最先端のデジタル技術を活用する「スーパービレッジ構想」でも全国から注目を集めている。

だが、西山猛村長への取材を終えた今、心に残っているのは7348%という数字ではない。「恩返しするべな」その一言だった。不登校だった息子とともに人生を立て直し、やがて村長となった一人の教師。その歩みを追うと、更別村が選ばれる理由は、制度でも数字でもなく、人の中にあることが見えてきた。

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西山 猛(にしやま・たけし)

1954年、中札内村生まれ。龍谷大学卒業後、京都で就職。その後Uターンし、十勝管内の小・中学校で教員を務め、更別小学校校長などを歴任。2015年、更別村長に初当選。現在3期目。全国から注目を集める「更別スーパービレッジ構想」を推進するなど、「挑戦する村づくり」の先頭に立つ。

7348%では語れない村

数字の向こう側を見に行った

全国平均38%。北海道平均216%。そして、更別村7348%。

最初にこの数字を目にした時、正直、実感が湧かなかった。

食料自給率7348%。

確かに驚異的な数字だ。

だが、その数字だけで「更別村へ行ってみたい」と思う人は、どれほどいるだろう。

私は日頃、十勝への移住相談を受けている。

「仕事はありますか」「住む場所はありますか」「子育てしやすいですか」そんな質問は何度も受けてきた。けれど、「食料自給率7348%だから移住したい」という人には、一度も会ったことがない。

だから知りたかった。

数字の向こう側には、何があるのか。

なぜ、更別村は人を惹きつけるのか。

その答えを探しに、西山猛村長を訪ねた。

日本の食卓を支える村

更別村の人口は約3,000人。十勝南部にある小さな村である。しかし、その小さな村が担う役割は驚くほど大きい。

小麦。じゃがいも。てん菜。豆類。そして酪農。

広大な十勝平野で育まれる農産物は、日本の食卓を静かに支えている。

農家一戸あたりの耕地面積は約56ヘクタール。東京ドーム10個分を優に超える広さだ。

北海道町村会の独自試算によると、更別村の食料自給率はカロリーベースで7348%。

全国平均38%を大きく上回り、全道144町村でトップとなった。

村民一人が、およそ73人分の食料を生み出している計算になる。

「日本の食料生産を支える農業王国十勝の中で、更別村の底力を内外に示すことができてうれしい」西山村長は、そう静かに語った。

だが、この日の取材で持ち帰りたかったのは、その数字の大きさではなかった。

人生を変えたUターン

教師だった父親の葛藤

西山村長は、更別村の隣の中札内村で生まれ育った。大学卒業後は京都へ渡り、やがて故郷・十勝へUターンする。

教壇に立ち、子どもたちに勉強を教える毎日。家庭では、四人の子どもを育てる父親でもあった。

学校では、子どもたちを導く教師。だが、家庭では一人の父親として立ち尽くしていた。

その日々が、突然終わりを告げる。

父親にも答えはなかった

息子が学校へ行かなくなった。部屋から出ない。友達とも会わない。何を話しかけても返事が返ってこない。

教師でありながら、自分の子どもには何もしてやれない。

親として、何が正しいのかも分からなかった。

「京都時代の後半は、本当に辛かった」その一言だけで十分だった。

静かな口調の奥に、当時の苦しさがにじむ。

そんな時、更別村へのUターンが決まる。

北海道。十勝。人口約3,000人の小さな農村。

これが、一家の人生を大きく変えることになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。

村が一人の少年を変えた

「遊ぼう」の一言から始まった

更別村へ移り住んで間もない頃だった。学校へ行かなかった息子が、ある日いなくなった。

慌てて探す。すると近所で遊んでいた。しかも、友達と一緒だった。

「気づいたら遊びに行ってたんだよ」村長は、懐かしそうに笑う。

近所の子どもたちが家まで迎えに来る。

「遊ぼっ!」

その一言で外へ出た。走った。笑った。友達ができた。野球少年団にも入った。そして、学校へ通えるようになった。

京都では想像もできなかった変化だった。

「こっちは家にじっとしていられないからね」何気ない一言だった。

だが、その言葉には、更別村という土地の空気が、そのまま詰まっているように思えた。

子どもは村みんなで育てる

取材中、村長は何度も同じ言葉を口にした。

「人の距離が近いんだよ」

誰かが引っ越してくれば、村中が知る。

良いことも。悪いことも。夕方には話が広がる。都会なら窮屈だと感じる人もいるだろう。だが、その距離感に救われる人もいる。

近所のおじさんが子どもを叱る。おばあちゃんが褒める。親だけで育てるのではない。先生だけが教えるのでもない。地域全体で子どもを見守る。

そんな文化が、この村には今も息づいている。

私はこれまで、多くの移住相談を受けてきた。

仕事。住まい。収入。もちろん、どれも大切だ。

だが最後に移住を決める人たちは、数字ではなく、その土地の空気を選んでいるように思う。

「この町なら安心して暮らせそうだ」「この人たちとならやっていけそうだ」

更別村には、そう思わせる温度がある。

「景色だね」の意味

一番の自慢は日高山脈だった

取材も終盤に差しかかった頃、私は村長に尋ねた。

「村長、更別村の一番の魅力って何ですか」

食料自給率7348%。スーパービレッジ構想。子育て支援。空港まで15分。答えはいくらでもあると思っていた。

だが、村長は少しも迷わなかった。

「景色だね」

意外だった。

数字でもない。制度でもない。景色だった。

「晴れた日の日高山脈が最高なんだわ」

そう話す表情は、村長というより、一人の更別村ファンだった。

空港から15分で景色が変わる

取材を終え、車を走らせた。

村長の言葉の意味が、少しずつ分かってきた。更別村の景色は、観光地の景色ではない。暮らしの景色だ。

どこまでも続く畑。真っすぐ伸びる一本道。見上げるほど広い空。そして、その向こうに連なる日高山脈。

移住相談者の中には、

「空港からの景色を見て、ここに『住みたい』と思った」という人がいる。

以前の私は、少し大げさではないかと思っていた。

だが、この景色の中を走っていると、その気持ちが少し分かる。とかち帯広空港から更別村までは車で約15分。飛行機を降りて間もなく、この風景が日常になる。

都会との距離は近い。けれど、流れる時間はまるで違っていた。

未来はもう始まっている

人口3,000人の実験場

更別村は、農業だけの村ではない。人口約3,000人。その小さな村へ、全国の企業や研究機関が次々とやって来る。

理由は、「更別スーパービレッジ構想(デジタル田園都市国家構想)」だ。

自動運転トラクター。ドローン。デジタル行政。オンライン診療。健康管理サービス。

都会では当たり前になりつつある技術を、この村では「暮らし」に結びつけようとしている。

「どんどん、いろんな企業が来るんだよ」

村長は、まるで昔から知っている友人の話をするように笑った。

東京の企業。大学。スタートアップ。未来をつくる人たちが、この小さな村へ集まってくる。

考えてみれば、不思議な光景だ。

人口約3,000人。北海道の農村。普通なら「何もない」と言われてもおかしくない。

それなのに、更別村には「何かを始めたい」という人たちが集まる。

「チャレンジしないと何も始まらない」その言葉は、村長の口癖ではない。

生き方そのものだった。教師だった頃も。そして村長になった今も。その姿勢は、少しも変わっていない。

分譲地が埋まる理由

未来を語るだけでは、人は住まない。暮らしやすさがあってこそ、人はこの土地を選ぶ。

更別村では、新しい分譲地が整備されるたびに家が建つ。

帯広から。札幌から。首都圏から。移り住む人も少なくない。

人口約3,000人の村に医師は4人。

保育園も学校も役場も近い。子育て世代にとって、暮らしやすい環境が整っている。

「ほとんど子育てにお金がかからないんじゃないかな」村長はそう言って笑った。

制度だけではない。

安心して子どもを育てられる空気がある。その空気に惹かれ、人はこの村を選ぶ。

取材を通して、そう感じた。

空港から15分という価値

更別村の話をすると、「不便そうですね」と言われることがある。

だが、実際はその逆だ。

とかち帯広空港まで車で約15分。更別インターチェンジまでは約2分。東京へ向かうにも、帯広へ出るにも、不便さはほとんど感じない。

「飛行機が見えてから迎えに行っても間に合うんだよ」村長は笑う。

冗談のようだが、本当にそれくらい近い。

自然だけでは、人は暮らせない。便利さだけでも、人は定住しない。その二つが無理なく共存している。

それも、更別村の大きな魅力なのだろう。

教え子が村長をつくった

「先生、もう一度面白いことしよう」

更別村に支えられた。だから恩返しをしたい。

その思いで、西山さんは教師として地域に関わり続けた。

妻は保育士として、子どもたちの成長を見守った。

それで十分だと思っていた。

ところが、ある日、教え子たちが訪ねてくる。

「先生、もう一度面白いことしよう」

「面白いことって何だ?」

そう聞き返すと、教え子は迷わず言った。

「村長やろうよ」

思わず笑った。

「お前ふざけんな。村長は面白くやるもんじゃねえ」

もっともな返事だった。

だが、教え子たちは引かなかった。

本気だった。先生が歩んできた人生を知っていた。

苦しかった京都時代も。地域に支えられたことも。恩返しを続けてきたことも。

だから今度は、自分たちが先生を支えたかった。

教師だった一人の男が、教え子たちに背中を押され、村長になる。

そんな話が本当にあるのだろうか。

取材中、私は何度もそう思った。

だが、それは更別村で実際に起きた出来事だった。

子育て世代が集まる理由

制度だけでは説明できない

更別村は子育て支援が手厚い。医療環境も整っている。交通の便もいい。それは事実だ。

だが、取材を終えた今、それだけでは説明できないと思っている。

人には、数字では測れない安心感が必要なのだ。

誰かが見守ってくれる。困った時には相談できる。子どもを地域全体で育てる。そんな文化が、この村には今も残っている。

それこそが、更別村が選ばれる理由なのではないか。

村長自身が証明している

そのことを、一番よく知っているのが西山村長自身だ。

不登校だった息子。苦しかった京都時代。

そして、更別村で迎えた人生の転機。

誰よりも村の力を体験した人だからこそ、その言葉には重みがある。

「人の距離が近いんだよ」

取材中、何度も耳にした言葉だった。

恩返ししたくなる村

景色よりも残ったもの

帰り道、頭に浮かんだのは日高山脈ではなかった。

人だった。近所の人たち。子どもたち。教え子たち。そして、西山村長。

「景色だね」

そう話した村長の言葉を思い返す。

あの景色を美しくしているのは、山でも畑でもない。

そこに暮らす人たちなのかもしれない。

食料自給率7348%。日本トップの数字。スーパービレッジ構想。空港まで15分という利便性。子育て支援。農業王国。どれも、更別村を語るうえで欠かせない。

だが、取材を終えた今、私の頭に残っているのは、それらの数字ではない。

「恩返しするべな」

村長が何度も口にした、その一言だった。

不登校だった息子を受け入れた村。一人の教師を村長にした村。そして、恩返しが、次の恩返しを生む村。

取材前、私の興味は7348%という数字だった。

取材後、誰かに伝えたくなったのは、ひとつの家族の物語だった。

食料自給率7348%。その数字の向こう側には、人が人を支え、人が人を育てる村があった。

それこそが、更別村という村の、本当の豊かさなのだと思う。

編集後記

食料自給率7348%という数字を追って更別村へ向かいました。ところが、帰り道、頭に残っていたのは数字ではなく「恩返しするべな」という一言。人を取材すると、その町の本当の姿が見えてくる。そのことを改めて教えられた取材でした。感謝。

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更別村は帯広市から35キロほど南にある、人口約3,000人の自然に囲まれた農村地域です。 とかち帯広空港から車で約10分、札幌まで高規格道路で約3時間半、東京まで空路1時間30分と極めて交通のアクセスがよい環境にあります。 主幹産業は農業で、広大な土地を生かした大規模機械化農業は、一戸当たりの経営面積、トラクター所有台数ともに日本最大規模を誇ります。

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