「『移住しようか、どうしようか。本当に北海道のローカルでやっていけるだろうか?』そんなふうに迷っているなら、サクッと一回住んでみるのがおすすめです」。こう語るのは、十勝在住10年以上の松永大さん。
「若いうちの移住は、きっと刺激的ですよ。多少は理想とのギャップがあっても、体力も柔軟性もあるから、ポジティブに楽しめると思います」
大阪出身の松永さんと、北海道・十勝の出合いは「転勤」。帯広市に初出店する大手飲食チェーンの店長として赴任し、ゼロから奮闘する乗せる日々のなかで、この土地の心地よさに気づいたと言います。店を軌道にのせ、一度は帰任するも「もう一度、十勝へ」と後ろ髪を引かれて退職を決意。自分らしい働き方を求めて、今度は帯広市の南に位置する更別村へ“出戻り移住”し、現在は村で唯一のスパイス料理専門のキッチンカー「kitchencar eachday(イーチデイ)」を営んでいます。
15種以上をブレンドしたスパイスカレーと、十勝産のてんさい糖を使った甘くスパイシーなクラフトコーラが自慢の「kitchencar eachday」。更別村のある南十勝を中心に出店し、十勝晴れの青空にスパイスカラーののぼり旗をはためかせています。メニューの開発や仕込みはもちろん、SNS運用、出店交渉までこなす松永さん。最近ではキッチンカーが一堂に会するグルメイベントの主催にも挑戦しているのだとか。

「飲食チェーン時代は、お客さんが来てくれることを当たり前のように感じていたし、ただ忙しなくこなす毎日。店長として、いかに売上や回転率を上げるかに意識を割いていました」と振り返ります。
「今は自分から出向いてカレーと笑顔を届けられるのがうれしいし、コミュニケーションこそがキッチンカーの醍醐味だと感じています。楽しみに待っていてくれるお客さんとの会話が励みになり、どんなに遠くても車を走らせられる。雪道の運転だけはいまだに慣れませんが、ようやく自分らしく働ける場所を見つけられた気がしています」
食の宝庫・十勝という土壌を得て、松永さんの食と接客のキャリアはさらなるステージへ。味にめっぽう厳しい大阪仕込みの本格スパイスカレーで老若男女を虜にします。

たまたま赴任先だっただけ。なのにドはまりしてもうた……
大阪育ちの生粋のなにわっ子。十勝とは縁もゆかりもないどころか、赴任するまで北海道に来たこともなかったという松永さんのキャリアをプレイバック。
学生時代から飲食チェーンでアルバイトに励み、飲食業界へ。前職では順調にキャリアを積み上げ、大阪府内を中心に数店舗の店長を歴任するなど、会社の発展にも貢献してきました。そして2015年、道内6店舗目となる帯広1号店の立ち上げを任され、十勝へやってくることにーーー。

「正直、北海道への赴任は想定外でしたよ。帯広ってどこだろうか、きっと寒いんだろうなって……。でも、そんなふうに先入観がなかったことが功を奏し、十勝が肌に合うと感じたんです。空気や景色がいいのはもちろんですし、何より『食』という共通項で導かれた気がしました」

※写真は以前のものです。2026年5月現在、更別村地域おこし協力隊は募集していません。
「地域おこし協力隊って知っていますか?」。更別村とのなれそめは、帯広店のスタッフのこんなひと言だったそう。とくに田舎暮らしに憧れはなかったものの、「地域おこしって、なんか面白そうやなぁ」と好奇心を覚えたと振り返ります。
なんともザックリ、でも松永さんは脱サラを決心。一度大阪へ戻って約20年勤めた古巣に別れを告げたのち、隊員を募集していた更別村へ“ソロ移住”を果たします。
初めの一歩は「地域おこし協力隊」。村で顔を売るにはもってこい
地域おこし協力隊に着任。役場の産業課に所属し、村肝いりの特産品「さらべつうどん」の製造や観光イベントの企画担当として、一歩を踏み出します。民間企業から自治体への転職は、ハードルが高くなかったのでしょうか?

「たしかに会社での経験とは違って戸惑うこともありましたが、新参者としてお世話になるからには“郷に入っては郷に従え”です。『地域に貢献』という初めての経験は新鮮そのもの。もともと独立して自分の飲食店を持つという明確な目標があったので、地域や農家の皆さんと知り合える絶好の機会だとも思っていました」
小さな村だから、「まだ誰もやってない」がいっぱいある!
地域おこし協力隊の職を辞したのちは、村内の道の駅へ転職。ここでも地元農家との交流を深めつつ、目標までの助走期間をひた走ります。そうしたなか、村での暮らしを通じてあることに気づいたのだとか。
「何もない村ですよーなんて、自虐や謙遜をする方もいるんですけど。あきんどの町育ちの僕には真逆に見えるんですよね。 何かをやろうとしても、都会ではすでに誰かがやっている。でも、更別村にはチャンスがゴロゴロしているぞって。僕が始めたスパイスカレーのキッチンカーもそのひとつ。自分がやればパイオニアになれる場所って、そうそうないですよね。現在は大学芋の『おいもさん(帯広市)』、ベビーカステラの『柏壱堂(音更町)』といったキッチンカー仲間とも協力し合い、みんなで地域を盛り上げていきたいと思っています」

熱量たっぷりにこう語る松永さんは、まさに更別のファーストペンギン。しかし、なぜ「カレーといえばインデアン」がテッパンの十勝でカレー屋なのかと尋ねてみるとーーー。

「よく聞かれますけど(笑)。十勝のカレー文化に便乗とか、挑戦してやろうという気持ちではなく、純粋に“スパイスカレーの聖地”と呼ばれる故郷・大阪の味をお届けしたくて。僕が作るのはグルテンフリーで、添加物を極力使わない北インド系のスパイスカレーです。十勝清水町産のとかち桃花豚、更別村産の野菜など地場の食材も取り入れ、十勝流を追求しています。ゆくゆくは実店舗の開業も見据えつつ、コトコト愚直にスパイスと野心を煮込む毎日です」
松永 大(まつなが だい)
大阪府出身。全国展開する大手飲食チェーンで店長職を歴任し、2015年に帯広1号店出店のため来道。十勝のポテンシャルの高さに魅了される。運営を軌道に乗せたのち、会社を辞めて更別村へ移住。地域おこし協力隊などを経て、キッチンカー「kitchencar eachday」を開業。大阪仕込みのスパイスカレーを引っ提げて、道内各地を駆け巡る日々。出店情報はInstagram(@kitchencar eachday)をチェック。