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更別村
7 views 2026-06-08
「成り行き移住」が人生を変えた。更別村の食を支えるスーパー店長の選択
十勝のひと

「成り行き移住」が人生を変えた。更別村の食を支えるスーパー店長の選択

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十勝南部にある更別村。地域の暮らしを支えるスーパーマーケット「ポピーマート」で、店長を務める原山達也さん。

「正直、北海道に強い憧れがあったわけではないんです」

そう語る原山さんの移住は、決して計画的なものではありませんでした。きっかけは、妻の夢。背中を押されるように長野県から海を渡り、十勝・中札内村を経て更別村へ。

気づけば8年。今では地域住民が出資して守ってきたスーパーマーケットの店長として、村の食卓を支える存在になっています。

偶然のように始まった移住は、なぜ「ここでよかった」と言い切れる選択へと変わったのか。一人の決断の裏側と、更別村で根を張るまでの軌跡を追います。

「馬に関わる仕事がしたい!」。妻の夢が、十勝への扉を開いた

「馬に関わる仕事がしたい!」。妻の夢が、十勝への扉を開いた

長野県出身の原山さんは、地元のスーパーマーケットで働いていた頃、京都から長野に移り住んできた奥様と出会いました。

「出会った当初から、妻の口からは“いつか北海道へ”という話がよく出ていたんです。もともと馬に関わる仕事に就くのが夢で、十勝にどうしても学びたい調教師がいた。それが大きな決め手になって、結婚から2年後、北海道への移住を本格的に考えるようになりました」

自身については「強くやりたいことがあったわけではなかった」と振り返りますが、だからこそ一歩を踏み出す決断は早かったと言います。

「30歳を過ぎて、“やるなら今しかないな”と。タイミングとしても、ちょうどよかったんですよね(笑)」

こうして二人が選んだ新天地は北海道・十勝。最初の住まいは、奥様の職場に近い中札内村のアパートでした。

原山さんはこれまでの経験を生かし、隣接する更別村のスーパーマーケットに勤務。慣れない土地での新しい暮らしが、静かに始まりました。

中札内村に来て8年、「定住化促進住宅」を活用して更別村へ

中札内村での暮らしにも慣れ、8年が過ぎた頃。穏やかな日常のなかで、奥様に新たな想いが芽生えます。

「庭から馬が見える場所に住みたい」

馬とともに生きることを夢見て十勝へ移り住んだ奥様にとって、それは自然な願いでした。しかし、アパート暮らしでは叶えられない。ふたりは、土地を探し、家を建てるという次のステップを考え始めます。

中札内村に来て8年、「定住化促進住宅」を活用して更別村へ

「働いていた更別村のスーパーマーケットでは、パートさんやお客さんとも気軽に話せる関係ができていて。土地を探していることを話したら、役場の方が『定住化促進住宅』という制度を教えてくれたんです」

移住者向けに整備されたこの住宅制度は、手頃な家賃と行政によるサポートが魅力。いきなり土地購入に踏み切るのではなく、まずは暮らしの拠点を移しながら、じっくりと理想の場所を探す。

「安心して次の一歩を踏み出せる仕組みでした。まずは制度を利用して、更別での生活をスタートしようと決めたんです」

こうしてふたりは、中札内村から更別村へ。夢に少しずつ近づく、新たな暮らしが始まりました。

     2018年、原山さんは更別村への移住を実現させます。

定住化促進住宅

更別村が移住希望者向けに設置した住宅。現在村外に住み、将来的に更別村への定住を希望する人が対象。適当な住宅がない方が対象。最長2年間入居でき、入居中に次の住まいを探すことが条件となっている。

大胆な行動で「理想の住環境」を手に入れる

定住化促進住宅の入居期限である2年が近づくにつれ、原山さんの中に、次の一歩をどうするかという迷いが生まれます。

「最初の1年は、環境にも慣れて楽しく過ごしていたんです。でも、もう1年経った頃から“この先どうしようか”と考えるようになって。2年って、長いようで本当にあっという間なんですよね」

土地や空き家を探す日々も続きましたが、条件に合う物件にはなかなか巡り合えませんでした。理想と現実の間で揺れ動くなか、原山さんは一つの決断を下します。

「いま住んでいるこの家を、そのまま購入できないかと考えたんです」

前例のない挑戦でしたが、地域の人たちに声をかけ、署名を集めて村長へ提出。その想いは議会に届き、結果として現在の住まいを取得することが認められました。

偶然ではなく、自ら動いたからこそ掴んだ住まい。

大胆な行動で「理想の住環境」を手に入れる

念願の持ち家を手に入れてからは、仕事の合間を縫って少しずつ手を入れ、奥様の願いだった「庭から馬が見える風景」を形にしていきました。

「定住化促進住宅は、“まず住んでみる”にはとても良い制度です。ただ、いずれは次の住まいを考えるタイミングが必ず来る。だからこそ一人で抱え込まず、役場に相談しながら進めていくことが大事だと思います」

制度をきっかけに始まった暮らしは、やがて自分たちの手で築き上げる“定住”へと変わっていきました。

雄大な景観と充実したインフラが支える快適な更別の暮らし

雄大な景観と充実したインフラが支える快適な更別の暮らし

原山さんに更別村での暮らしの魅力を尋ねると、まず挙がったのは、この土地ならではの風景でした。

「畑が本当にきれいなんですよ。視界が開けていて、日高山脈がドーンと見える。その景色を見るたびに、気持ちがいいなと感じますね」

加えて、本州出身のふたりにとって大きな安心材料となっているのがアクセスの良さです。

「とかち帯広空港まで車で15分くらい。いざというときにすぐ帰れる距離にあるのは、やっぱり安心感があります」

一方で、北海道ならではの厳しさもあります。その代表が冬の雪です。

「雪の量は、長野とは比べものにならないですね(笑)。気温が低いので、日中でもなかなか溶けないんです」

それでも、暮らしに不便を感じることは少ないといいます。

「農村部では農家さんが雪はねをしてくれますし、街中も建設会社を中心にしっかり除雪してくれる。そこは本当に助かっています」

更別村は、十勝の中でも除雪体制に定評のある地域のひとつ。

移住先として北海道を検討するうえで欠かせない“冬の暮らしやすさ”という視点においても、安心して暮らせる環境が整っています。

大手スーパーから地域密着型スーパー「ポピーマート」へ

大手スーパーから地域密着型スーパー「ポピーマート」へ

現在、原山さんが店長を務めるポピーマートは、地域の暮らしを支える存在です。

その始まりは21年前。地元スーパーマーケットの閉店によって「買い物の場がなくなる」という危機感から、上更別地区の住民たちが出資し、立ち上げたのがこの店です。

地域の想いが詰まったポピーマート。そのバトンを、2024年9月、原山さんが前店長から引き継ぎました。

北海道に移住して以来、ここは3つ目の職場になります。

当初は更別村の地元スーパーに勤務していましたが、事業譲渡により大手スーパーへ。その後、大樹町の大型店舗へ異動し、忙しい日々を送っていました。

そんな折、ポピーマートの前社長が後継者を探していると知ります。そしてある日、自宅を訪ねてきたのは、その前社長本人でした。

「まさか自宅まで来てくれるとは思っていなくて。正直、驚きましたね」

大手スーパーマーケットでの安定した環境を離れる決断は、決して簡単ではありません。それでも、原山さんの背中を押したのは、地域の現実でした。

「車がない方にとっては、ここがなくなると本当に困ってしまう。ポピーマートは、なくしてはいけないお店だと思ったんです。収入が下がることもわかっていましたが、それ以上に“自分にできることがあるならやりたい”という気持ちが勝りました」

移住者としてこの地に来た一人の人間が、いつしか地域にとって“必要な存在”へと変わっていく。その転機は、静かに、しかし確かに訪れていました。

成り行きの移住者から、地域の食卓を支える存在へ

成り行きの移住者から、地域の食卓を支える存在へ

大手スーパーからポピーマートへ。原山さんの働き方は、大きく変わりました。

「前職はかなり忙しくて、目の前の業務をこなすことで精一杯でした。それに比べると、今はずいぶん落ち着いて働けています。何より、お客さんや地域の方と向き合う時間が増えましたね」

日々の仕事は、食品の仕入れから販売、そして配達まで。店に足を運べない高齢者や車を持たない方にとって、ポピーマートは生活を支えるインフラの一つです。

「『重くて持てないから』と言われたら、『じゃあ届けますよ』と。その場で判断して動けるようになったのは、大きな変化ですね」

店舗に隣接するコミュニティスペース「オアシス」

店舗に隣接するコミュニティスペース「オアシス」の運営も、原山さんの大切な役割です。もともとは体操や大正琴など、地域の高齢者が集う場所でしたが、最近ではその風景にも変化が生まれています。

「水泳教室に通う子どもたちの親御さんが待つ場所として使われたり、ゲームの同好会が集まったり。世代を越えて人が集まるようになってきたのが嬉しいですね。これからは、お店としても企画を考えて、もっと多くの人が自然に集まれる場所にしていきたいと思っています」

そう語る表情は、どこか柔らかく、地域に根ざした日々の充実を物語っていました。

インタビュー後、店の外を一緒に歩くと、近隣の人たちが次々と声をかけてきます。

「こんにちは」「今日は寒いね」。交わされる何気ない言葉のひとつひとつに、この場所で築かれてきた関係性がにじんでいました。

もともとこの地に暮らしてきた人と、外からやってきた人。その境目が、驚くほど自然に溶け合っている。更別村の懐の深さは、こうした日常のなかに、静かに息づいていました。

移住に必要なのは、思いの熱量

移住を検討している人に向けてメッセージを求めると、原山さんからはこんな答えが返ってきました。

移住に必要なのは、思いの熱量

「北海道での暮らしに憧れを持っているなら、その思いを大事にしてほしいなと思います。熱量があることで道が開けるし、つながりも作れると思うので」

北海道や十勝へ特別な思い入れがあったわけではなかった原山さん。しかし、こう続けます。

「今は十勝でよかったと思います。日高山脈の雄大な風景は本州ではみられないですし、ここで仕事できるのがすごく幸せです」

家族の夢を叶えたい思いと、誰かの役に立ちたい思いの強さが、原山さんの移住生活を豊かなものに導いてくれたのだと感じました。

原山 達也(はらやま たつや)

長野県出身。妻の北海道移住の夢をきっかけに、2010年に十勝・中札内村へ移住。地元のスーパーマーケットでの勤務を通じて更別村との縁が深まり、定住化促進住宅制度を利用して2018年に移住。2024年9月より上更別地区にある地域住民出資の「ポピーマート」の店長を務め、日用品・食品配達やコミュニティスペースの運営を通じて地域に根ざした役割を担っている。

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河西郡更別村字更別南1線93番地

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更別村は帯広市から35キロほど南にある、人口約3,000人の自然に囲まれた農村地域です。 とかち帯広空港から車で約10分、札幌まで高規格道路で約3時間半、東京まで空路1時間30分と極めて交通のアクセスがよい環境にあります。 主幹産業は農業で、広大な土地を生かした大規模機械化農業は、一戸当たりの経営面積、トラクター所有台数ともに日本最大規模を誇ります。

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