北海道の土地面積の約70%を占める森林。しかし、個人が山を持っていても管理が行き届かず、価値を生み出す事が難しいのが現状です。スイスなどでは森の機能を維持しながら林業経営を行う森づくりの方法があるそうです。それを池田町で目指しながら事業を起こし、30haの森の管理をしている、元池田町地域おこし協力隊の2人、「minotake(ミノタケ)」の川瀬千尋さんと頓所幹成さんにインタビューしました。
自然料理研究家・食育講師|千葉県出身。日本大学生物資源科学部農芸化学科卒業。料理の現場で12年働き、新人賞・優秀社員賞を受賞。2015年独立。自主開催講座は30分で満席が続いたり、一般募集前にクチコミで満席になってしまう事も。行政や子育て支援関係、企業からの依頼、自主開催講座、参加人数は述べ2000人。
北海道様似町出身。投資家として知られるロバート・キヨサキに感化され、経歴を辿るようにまずは自衛隊に入隊。その後帯広の不動産会社に就職。大好きな森にいる時間を増やしたくて、林業推進枠で募集されていた池田町の地域おこし協力隊になる。不動産、民泊、hakonoko(生キクラゲ生産)など、複数の事業を手がける。きのこと山菜が好きな男。
長野県中野市出身。東京農業大学森林総合科学科卒業後、町おこしを推進する、フリーミッション型の地域おこし協力隊として池田町に移住。エゾシカ革専門の革製品ハンドメイドブランド「TanDecor(タンデコール)」を立ち上げ、狩猟・解体・皮なめし・製品製作までを一貫して行う。鹿と木登りが好きな男。
Q 2023年に森林環境を保全しながら経済性を追求し、伐採や剪定などを行う会社「minotake(ミノタケ)」を立ち上げたそうですが、お二人の出会いは池田町の地域協力隊との事。池田町の地域おこし協力隊になるまでの経緯を教えてください。
川瀬:自衛隊を退職後、帯広の不動産会社へ転職し不動産経営を学んでいました。きのこと山菜が大好きで、もっと森にいる事が出来ないか?と考えて林業について調べていたところ、経済性と環境保全を両立する自伐型林業に辿り着きました。そのタイミングで池田町が自伐型林業を推進する地域おこし協力隊の募集を行っていたため、応募しました。
頓所:長野県で生まれ育ち、そこで祖父母が果樹を育て生活していました。子どもの頃からお小遣いをもらう為に手伝っており、木は身近な存在だったんです。果樹園を継ぐことも念頭に、高校は農業高校へ行き大学も東京農業大学森林総合科学科へ進学。
大学の卒論のテーマに狩猟を選び、都内で行われていた狩猟のフォーラムに参加し始めた所、当時池田町の地域おこし協力隊だった方の活動を知ったんです。この人のいる池田町に行きたいと、後を追うように池田町の地域おこし協力隊となり、狩猟ライセンスを取得。最初の1年間は彼にピッタリとくっついて狩猟から解体、皮のなめしなどを教えてもらい、2年目に独り立ちして鹿撃ちを始めました。
Q 現在のminotakeの事業の事業の全体像を教えてください。
頓所:森を管理する過程で生まれる伐材を薪や椎茸のホダ木などとして販売しています。また樹皮細工使う白樺樹皮や、イタヤカエデ・白樺の樹液の販売、山菜やきのこ狩りなどの森林空間を活用したイベントを行っています。
その他、大木・高木の伐採のほか、高所作業車やクレーンを使った伐採以外に、機械を使わない特殊伐採(樹上伐採)ができる事が僕達の特徴の1つです。狭くて車両の入れない狭いエリアや、機械を入れる事で庭がボロボロになってしまう事を防ぎたい一般家庭の庭木など、ロープワークを駆使して木に登り伐採することも出来ますよ。機械を使わない事で、金額を抑えて伐採する事ができるんで、伐採・剪定は1本から可能、十勝管内ならば無料で見積もりにもお伺いしますよ。
白樺の樹液に関しては、私もお世話になって今年で3年。池田町の林務係の方に、紹介して頂いた事がきっかけでしたね。おかげ様で今年も白樺樹液の豆と野菜のスープを無事作る事ができます。安定して必要量を得る事ができるようになった事で、昨年から帯広市のふるさと納税でも扱ってもらえるようになりました。
Q それぞれ、別々の形で池田町地域おこし協力隊となったわけですが、現在は一緒に事業を行っています。共に山の管理を行うようになったきっかけはあるのでしょうか?
川瀬:林業を「複業」で行いたいという思いがありました。森を育てていくには、環境負荷にならない様に管理する必要があります。しかし、それにはとても手間がかかりますし、森に依存すると、お金が無くなったら木を伐るしかなくなってしまうんです。
頓所:そうそう、狩猟だけで生活していくには不安があり、狩猟×何か、2〜3個を掛け合わせて仕事に出来ないかと考えていました。山や林などで何か・・と考えた時、大学時代に得た知識もある林業が頭に浮かんだんです。そんな時、川瀬さんが林業の地域おこし協力隊として採用され、チームであれば山を管理していくということができるのではないか?と思いました。そこにタイミングよく、池田町に山を持っている方が、役場に相談にこられていて、僕達の目指す山を持つ事が価値になる森づくりについてプレゼンさせて頂き、山を貸してもらえる流れになりました。
Q 山を持っている事が価値になる様にしたいと伺いましたが、何故そのように考えるようになったのでしょうか?
川瀬:スイスなど中欧諸国では、環境と林業経営の両立を目指す「近自然森づくり」という考え方があります。不動産業を長年やってきている事もあり、物事を投資の視点で見ることが多いのですが、そのような視点で見た時に、山を持つ事は、超長期投資になるのではないかと考えました。
ただ、管理をせず所有し続けても資産価値の高い山にはなりません。間伐(手入れ)を繰り返しながら優良な木を育てていくことで、山全体の価値を高めることができるんです。そして、間伐材を定期的に現金化することで、長期的な森づくりを可能とします。投資信託のように分配金(間伐材の利益)をもらいながら元本(山の価値)が増えていくのが、山主にとって大きなメリットとなります。
Q 北海道では山の価値は低く、持っていても仕方がないという声があると聞いた事がありますが、資産になれば維持する価値がありますし、購入して利益を得たいという人も出てきますよね。手付かずで荒れてしまっている山を再生する事にも繋がります。しかし、大手の林業会社と違って、木を沢山伐る事ができず、大きな利益を得るのは難しくはありませんか?
川瀬:手間がかかるので人手が必要ですし、沢山伐らないということは、木の価値を上げなくてはいけません。薪として販売するより、ホダ木として売る方が単価は上がるなど、素材の販売方法によって価格が変わります。また、十勝には多くの薪を販売している会社があるので、パイの奪い合いにならないようにしなくてはなりません。
そこで、自分の手がける民泊に薪ストーブを入れ、そこに泊まった人が薪ストーブに触れて興味を持つ事で、潜在的に木を必要とする人を増やしたいと思っています。薪が必要となれば、自分で作ろうと考える人は森にも入るようになる。森は長期的な目線で関わる必要があるからこそ、将来の担い手となる人も増えて欲しいと考えています。
塚田 玲央. All Rights Reserved
Q minotakeとして、今後やっていきたいことなどはありますか?
川瀬:木を物として残る形にしていきたいです。昨年、札幌に新しくオープンした複合商業施設ココノススキノの上層階にある、SAPPORO STREAM HOTEL18階プレミアムラウンジに、僕らが伐採した白樺が納められています。僕の民泊施設でも、チェンソーで製材した木を家具として使用していますし、間伐材を人の目に触れる利用に繋げていきたいです。
僕らの切った木を、オフィスや家庭など街の中で活用できるように、家具などの形にする事で、森が街に移動したような、そんな利用の仕方を模索して行きたいですね。