「大卒採用とまるで違う」――そんな声が各地から噴出するのが、“高卒採用”の世界。そこには一子相伝の如き独自のスケジュール、そして一見すると「職業選択の自由は?」と思ってしまうような特殊ルールがあります。その名も「一人一社制」。どうやら、このルールをまったく知らないという方が想像以上に多いらしいのです。三者協定(行政・主要経済団体・学校組織)で守られた、高卒採用のスケジュールと「一人一社制」を解説。貴方の知らない“高卒採用の真実”がここにあります――。
まず押さえておきたいのは、大卒採用とは完全に別モノの高卒採用スケジュールです。
毎年、各都道府県や経済団体、学校組織が協議して決めるため、「解禁日」や「選考開始日」が厳格に運用されています。
6月1日:ハローワークによる求人申込書の受付開始
7月1日:企業が高校に求人申込・高校訪問を始められる解禁日
9月5日:学校から企業への応募書類提出スタート(沖縄県のみ8月30日)
9月16日:企業の選考・面接開始、および内定通知開始
企業側は「9月16日」までは面接すらできません。“ルール無用”に見える就職活動の裏で、実は水面下での厳格管理が行われているのです。
ポイント:早期に勝負をかけたい企業は、7月1日以降の「高校訪問」が肝心。求人票をハローワークで作成し、高校の進路指導部にアピールすることが成功の鍵を握ります。
ここで突如として現れるのが、「一人一社制」なる謎のルール。「いったい何の話?」と戸惑う方も多いでしょう。実は、高卒就職の“公式ルート”=「学校斡旋」で職を探すと、9月の応募受付開始以降、一人の生徒が同時期に応募できる企業は“たったの1社”しかないのが一般的なのです。
「なんと非効率!」と思われるかもしれませんが、これには歴史的背景が。
学校が一人ひとりの生徒を“手厚くサポート”し、学業優先の環境を損なわないようにするために設けられたルールなのです。逆に言えば、企業にとっても“内定辞退が起きにくい”というメリットがあるのがこの制度です。
一人一社制と一口に言っても、都道府県によって微妙に内容が異なります。
例えば、秋田県や沖縄県は就職活動当初から「一人三社」まで応募を認める“緩め”のルールを採用。一方、東京では「9月中は一人一社、10月1日以降は二社までOK」と段階を踏むパターンが一般的です。(ただし、都外の企業に応募する場合は、応募先の道府県のルールを適用)
大阪では「当初から一人二社まで応募・推薦がOK」としています。(ただし、指定校求人以外の公開求人とするが、求人者が複数応募を認めた場合に限定。)
「以前は9月から二社OKだったが、近年変更された」という鳥取県や、「複数社応募が可能になった」和歌山県や茨城県の例もあり、毎年の協議でアップデートされているのです。
※参照:「高卒」人材の就職やキャリア形成における課題を解決する企業「株式会社ジンジブ」
ちなみに、北海道は10月中までは一人一社制、11月1日以降一人二社まで応募・推薦を可能となるそうです。(ただし、就職面接会で応募する場合は、期間にとらわれず一人二社以上応募・推薦が可能)
この差異が、生徒や企業の行動に影響を与えるのは言うまでもありません。
複数の企業に応募するために、学校の斡旋外で自ら就活するという生徒もいれば、「最初の1社」で勝負をかける生徒もいる。
まさに“百花繚乱”、“千差万別”の世界なのです。
一人一社制など制約の多い高卒採用ですが、それでも最近は企業側の注目度が高まっています。
その背景には、厚生労働省が公表したデータがあります。
2025年春卒業予定の高校生求職者は約12万6000人(前年同期比0.1%減)に対し、企業が出した求人数は約46万5000人(同4.8%増)。
結果、求人数を求職者数で割った求人倍率は3.7倍という高い数字が叩き出されました。
このように、「厳しいようでいて意外にメリットが大きい」のが高卒採用。
一方で、生徒側も「複数エントリーができない」ことから、入社後のミスマッチがないよう入念に企業研究が行われるメリットもあります。
ただし、“一人一社制”の裏では、思わぬ落とし穴が待ち受けることも。
大半の高校では、誰がどの企業に応募するかを決める際、「校内選抜」という手続きを踏みます。その際の基準となるのが成績や出欠状況。
いわば“成績優先”で生徒を振り分ける仕組みが根強く残っているのです。
このため、「行きたい企業があったのに、成績が足りずに門前払い」という声も存在します。
まさに「泣きっ面に蜂」、“学校に許可されなければ応募できない”という“半ば不可解”な状況が、高校生の就職世界には色濃く残っているのです。
「じゃあ、学校の推薦を受けない方法はないの?」という疑問も当然出てくるでしょう。
実際には、「自己開拓」や「縁故就職」というルートも存在し、これらは原則「一人一社制」の対象外。
ただし、高校生の就活全体から見ると割合はわずか。大半が学校斡旋を選ぶのが現実です。理由は、教員や保護者が「安全牌」として学校斡旋を優先することが多いからにほかなりません。
企業にとっては、「応募者が少なすぎないか」と不安が先に立つかもしれません。しかし、一人一社制が逆に“内定辞退のリスク低減”に大きく寄与するのも事実。1社のみしか応募できない以上、志望度の高い状態で面接に来る生徒が多く、ミスマッチが起こりにくいのです。
とはいえ、1社でも「自社を選んでくれる生徒」がいなければ元も子もありません。そこでポイントになるのが「高校訪問」や「進路指導部との連携」。
「この学校の生徒をぜひ欲しい」と考えるのであれば、早めのアピールや職場見学の受け入れを充実させ、学校と信頼関係を結んでおくことが、いわば「背水の陣」を乗り越える最善手でしょう。
一人一社制の是非は、今もなお議論の的。
「少子化時代に合わない」「生徒の選択肢を狭めている」と否定的な声も根強い一方で、長年の運用実績があるのも事実です。
それでも、一度の選考で不合格となると「10月まで別企業に応募できない」など、生徒側のリスクは小さくありません。
多くの都道府県が、「9月は一人一社制、10月以降は複数社OK」と段階的に応募チャンスを増やしている現状を踏まえると、生徒が企業と出会う場面をいかに多く設けるかが大切です。
職場見学や説明会、インターンシップなどを積極的に実施し、“生徒が納得のいく選択”をしやすくする――。そうした下地づくりこそ、企業にも学校にも求められる責務と言えます。
1人の生徒が9月以降、基本的に応募できるのは1社だけ。この“独特の仕組み”は一見、絵に描いた餅のように感じる人も少なくありません。しかし、その内側には学業優先や内定辞退防止、そして公平なチャンス創出といった目的が隠れています。
制度の仕組みを正しく理解し、手続きを粛々と守るだけでなく、情報発信や見学会の充実を図り、生徒本人が将来へ踏み出す自信を育むことが何よりも大切です。
高卒採用は、まだまだ“暗中模索”の部分も多い領域ではありますが、子どもたちが早期から社会で活躍し、企業が若い力を得る絶好のチャンスでもあります。
「一人一社制なんて聞いたことがない……」という方も、ぜひ今回の解説をきっかけに、“新卒就職の多様なカタチ”に目を向けてみてください。
こうした制度の裏には、今を生きる高校生が未来を切り開くための努力と、それを支える大人たちの見えざる苦労が詰まっています。
その扉を開く鍵こそ、「高卒採用への正しい理解」と「活用の知恵」なのです。ぜひ、貴社・貴校でも今一度“高卒採用”の可能性を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
こうした「高卒」人材の就職やキャリア形成における課題を解決する企業として、株式会社ジンジブが注目を集めています。ジンジブは、高校生向けのキャリア教育や就活情報の提供にとどまらず、就職後の定着支援やスキルアップ、さらには転職時のサポートまで行う“社会課題解決型”の企業。高校生が社会に羽ばたく一歩を総合的に支え、若年層のキャリア形成をトータルでサポートしてくれる存在として、今後さらに期待が寄せられています。