十勝に移住した人を「十勝移住物語」として紹介します。人口より牛がはるかに多く、森林が全体のおよそ8割を占める十勝・上士幌町。一方で、ふるさと納税を糧にいち早く地域の課題に取り組み、若い世代を中心に移住者を獲得。人口を上向かせています。3年前に立ち上がった「ママのHOTステーション」もその一つ。町の潮流を変え、“子育てがしやすい移住先”としての認知度アップに貢献する同事業の立役者・倉嶋香菜子さんに活動の軌跡と移住ライフについて伺いました。
自身も移住者でありながら、新入りママたちを迎え入れる上士幌町の拠点づくりに尽力。2023年2月には菅義偉元総理や鈴木知事らの視察も話題に。「ママのHOTステーション」では、どんな活動を行っているのでしょうか。
私自身も、夫の仕事の都合で誰も頼れる人がいない土地で出産・育児する孤独感とやるせなさを味わった経験があり、保育士として児童養護施設で働いていた頃にはさまざまな事情を抱えた母子を見てきました。そこで気がついたのは、ママの笑顔こそが子どもたちを笑顔にするカギだということ。
『子育て支援』の核にあるのは『母親支援』であり、ママのケアこそが大切なんです。たとえば産前は不安がいっぱいですし、産後は慣れない授乳や離乳食作り、寝不足て゛いつもクタクタ……。そんな子育てママたちが悩みを共有し、ひと息つける空間を作りたいと思ったのが活動のきっかけです」(倉嶋さん)
移住前は、ご主人が経営する整骨院で、0歳児ママ向けの子育て教室)などを運営していた経験もある倉嶋さん。しかし、行政の事業となると一筋縄ではいかなかったと当時を振り返ります。
「やはり、個人の教室とは踏むべきステップが格段に違いますよね(笑)。“ママたちを応援する”という軸や熱量は同じですが、行政のお仕事なので活動の趣旨をより明確にして、関係各所や利用者の皆さんに理解してもらう必要があります。新たな事業よりも、うまく機能していない既存の枠組みを見直すべきという声もありました。
HOTステーションでは地元のお年寄りにボランティアで赤ちゃんのお世話役になってもらい、『ベビチアさん(Baby Cheer)』として活躍していただいていますがこれも当初はなかなか大変で(笑)。昨年までは、町の生活支援コーディネーターとして高齢者の福祉事業を担当していたため、育児支援だけではなく、お年寄りの社会的孤立を防ぎ異世代交流の場を作る狙いもありましたが、想いが一方通行にならないよう根気強く、丁寧に丁寧に説明を重ねていきました」
シニア世代に育児に協力してもらう「ベビチアさん」は、とても好評だと聞いています。発案者としての手応えはいかがでしょうか。
「大前提としてHOTステーションではママひとりだけでなく、参加者全員で赤ちゃんを見守っています。この点で、赤ちゃんとお年寄りは本当に相性がいい組み合わせだなと改めて実感しました。もちろん、人生や子育ての大ベテランなので新米ママにとっては知恵袋のような頼れる存在です。
一方で、おじいちゃん・おばあちゃんたちも赤ちゃんをあやしていると自然と朗らかな表情になるんですよ。愛情に満ちて、どこか昔を懐かしんでいるようにも見える温かな笑顔は、対大人ではなかなか引き出せないですよね。利用者と援助者の垣根を超えて、お互いにいい影響を与え合えていると思います」
行政側の視点から見ても、多世代間の育児交流を広げていくメリットがありそうですね。
「まずは『地域の持続性』が挙げられると思います。高齢者だけ、子育て世代だけで構成されたコミュニティよりも持続性が上がりますし、人口が少ない小さな町だからこそ特性も顕著なのではないでしょうか。ママたちには自分の子どもが地域のなかで見守られて、成長や喜びを一緒に分かち合える応援隊がすぐそばにいる安心感を感じてもらえたら嬉しいです」
約3年の活動を経て、確かな手応えを感じている様子の倉嶋さん。気になる今後の目標とは。
「まだまだやれることはあるとは思っていますが、これからもいい意味で“行政と地域の皆さんとの調整役”であり続けたいと思っています。行政の対応ってどうしても形式張っていて、ちょっと冷たい印象を与えてしまうこともあるんですよね。HOTステーションでは子育て経験のあるスタッフがママ達の声をうまく汲み上げて行政に届ける中立的な立場を心がけています」
育ち盛りの3兄弟の子育てに、HOTステーションの活動と大忙しですね。これまでを振り返り、先輩移住者としてのアドバイスはありますか。
「本当にあっという間だった気がします。家族5人での初めての北海道旅行で私も夫もすっかり十勝に一目惚れ。それ以上に、喘息やアレルギーに悩まされていた息子が旅行中は体調を崩すことなくのびのびと過ごせたことが嬉しくて、旅行から半年後には道民の仲間入りをしていました(笑)。まずは地元で開かれた移住フェアに参加して情報収集。それから、学校の冬休みを利用して実際に真冬の上士幌町で移住体験をしたり、地域おこし協力隊の面接を受けたりと、移住まではすべてが駆け足でした。
新生活が始まってからも、当時は非常事態宣言の真っ只中で息子たちは登校ができない状態で……。今思えば順風満帆なスタートとは言えませんが、そんなときでも我が家ではご近所や町の方々への挨拶を大切にするよう徹底していました。地域に迎えてもらう側として、挨拶やリスペクトは絶対に欠かせないものですよね。これから移住する方にはご縁や家族の時間を大切にしながら、とことん地域に溶け込んでもらいたいです!」
大阪府出身。地域おこし協力隊に着任し、2020年に一家5人で上士幌町へ。まちづくり会社「生涯活躍のまちかみしほろ」に勤務し、同年7月に子育て世代の母親たちの憩いの場「ママのHOTステーション」を立ち上げ。2022年に独立し、これまでの経験を生かして同事業の企画・運営を担当する。活動の様子や最新情報は
Instagram(@hot_station2020)で発信中。
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