十勝に移住した人を「十勝移住物語」として紹介します。「観光事業者だけがもうかるのではなく、地域に還元し、みんながハッピーになれるように……」。2022年10月16日付の十勝毎日新聞電子版でこう自身の抱負を語ったのは、同月に帯広市地域おこし協力隊員に着任したばかりの工藤陽司さん。北海道が推進する観光施策の目玉「アドベンチャートラベル」の振興役として、十勝・帯広市を舞台に活躍しています。着任から約半年。今だから言える“Jターンのホンネ”を語ってもらいました。
帯広市地域おこし協力隊員 | 函館市出身。大学卒業後に1年間のイギリス留学を経験。帰国後は広告代理店などの勤務を経てフリーランスに。観光による地域振興に興味を抱くようになり、北海道・十勝への移住を決心。2022年10月に帯広市地域おこし協力隊に着任し、アドベンチャートラベル振興を担当する。
恵まれた地域資源やコンテンツにより磨きをかけ、全国をリードする観光大国・北海道。帯広市に移住した工藤さんもまた、同市の観光事業を通じて地域に貢献し、つながりを深めています。
地域おこし協力隊の一員として約半年間、十勝・帯広エリアのアドベンチャートラベル(以下AT)推進事業に従事しています。ATとは『アクティビティ』『自然』『異文化体験』の3要素のうち2つ以上を含んだ旅のこと。
従来の旅行形態「マスツーリズム」と比較して、旅行者一人当たりの消費額や地域への経済波及効果が大きく、またポストコロナ下においても需要拡大が期待できるとして、昨今行政が力を入れて取り組んでいます。
道内に数ある魅力的なデスティネーションのなかでも、ここ十勝・帯広エリアは大規模農業地である事を筆頭に、民間団による開拓の歴史や、アイヌ文化、世界で唯一の競馬『ばんえい競馬』などユニークな観光資源の宝庫です。
さらに多種多様なアウトドア体験も可能で、まさにATにうってつけの土地柄なんですよ。私が所属する部署ではこうした十勝ならではの魅力を掘り下げ、国外のAT先進地にも引けを取らないコンテンツの造成を目指しています」(工藤さん)
爽やかなルックスとは裏腹に、溢れんばかりの十勝愛で熱弁をふるってくれた工藤さん。その一方、実は北海道観光の花形都市・函館市の出身で、観光業にも縁があったのだとか。
「両親が函館でペンションを営んでおり(2021年閉業)、旅行者を迎えたり、家族旅行に出かけたりと幼い頃から観光が身近な存在ではありましたが、大学卒業後は首都圏で広告関係の仕事に就きました。いつかは起業して何かを成し遂げたいとも考えていましたが、当時はまだ明確なビジョンを描けていませんでしたね。その後、転職やフリーランスなどを経て30歳を過ぎた頃、これから自分は何で生きていきたいのかを改めて考えました。これまで色んな経験をしてきたものの、気づけば自分のルーツでもある観光の仕事に興味を持ち、今後の生業としていきたいと思うようになっていました。」
なぜ移住を決断したのでしょうか。また函館へのUターンではなく、いわばアウェイとなる十勝へのJターンを選んだのかも気になるところです。
「はじめは東京から地方のサポートが出来るビジネスを模索していたのですが、全くアイデアが浮かばず、実際に観光業に力を入れている地方を見てみようと宮城県気仙沼市を訪れました。気仙沼市では、震災によって甚大な被害を受けた水産業とともに観光業を新たな基幹産業に位置づけており、そこで関係者のお話を伺ううちに、やはりしっかり地方に属して観光振興するべきだなと強く感じました。ちなみに、移住先に地元・函館を選ばなかったのは、単純に函館はすでに観光地として成熟しているから。いくら地元出身者とはいえ観光業界では新参者ですから、入り込むのには時間がかかるだろうなと(笑)。その点、十勝にはまだまだ発掘されていない観光資源が眠っているし、いい意味で“ここなら自分にもやれるぞ”という可能性を感じています」
開拓者のようにバイタリティ溢れる工藤さんに今後の目標を聞いてみると、またしても十勝愛に満ちた回答が。曇りなきまなこの奥に、大きな自信が垣間見えます。
「目下のところは地域おこし協力隊員として行政と地域の良き橋渡し役となり、地域の観光事業を盛り上げていくことです。移住から1年弱が経ち、より具体的な取り組みを行っていきたいので期待していてほしいですね。
また、無事に任務をまっとうした後は会社を立ち上げて、観光ツアーの造成やガイドの育成、ホテル経営など観光事業の幅を広げていくつもりです。十勝の観光資源と世界の需要をマッチングさせて、地域の皆さんと一緒に日本を代表する観光地を目指していけたら最高ですね!」
着実に地域の人々との信頼関係を築き、もはや“地元の人”となりつつある工藤さん。大きな「目標」が「現実」に変わる日もそう遠くはなさそうです。