教員の約8割が社会人経験ゼロ――。この数字が示すのは、過酷な多忙化に追われながらも「社会」を知らず、子どもたちの未来を指導しなければならない教師の苦境です。「世間知らず」と揶揄される現状は、果たして教師個人の問題なのでしょうか?いいえ違います。制度の歪み、専門家の不在、そして改革を阻む旧態依然とした環境……。危機一髪の教育現場を救うカギは、キャリアアドバイザーの配置と新しい連携システムにあります。教師を悪者にするのではなく、社会に即した解決策を打ち立て、子どもたちの未来を照らす方法を共に探りましょう。
冒頭、お伝えしたいのは、この記事は先生(教師)が悪いのではなく、教育界しか知らない人が就職指導は荷が重いのでは?という話です。やることが増えた先生は、日夜頑張っています。もちろん、人ですから至らない点はあるでしょう。それは、誰しも持つものということをお伝えいたします。
さて、目を引くのは、日本の教師における社会人経験の少なさ。少し古い情報ですが、文部科学省の資料や国際機関OECD(2018年調査/2020年公表)の「国際教員指導環境調査(TALIS)」によれば、日本の教員の約8割が社会人経験ゼロ。採用前にわずかでも民間企業で働いた経験のある教師は3.2%しかいないとも報告されています。
比較すると、同調査でアメリカは8割もの教師が何らかの社会人経験を有し、3人に1人が10年以上のキャリアを積んでから教壇に立っているという事実があります。
さらに、教員の社会人経験の平均年数を比較すると以下のような数値が表れます。
これが意味するところは明白。「社会を知らないまま」教員になった人が日本では圧倒的多数だということ。2023年の情報がいずれ公開されますが、どんな数字になっているのでしょう。
教師の重要な業務の一つに「進路指導」があります。大学進学や就職はもちろん、キャリア設計や人生の選択までアドバイスを求められるのは日常茶飯事。
しかし、「学校しか知らない」教師がどれほど現実社会の荒波や企業事情、就職の実態を理解しているかは疑問です。
「企業の仕組みも分からないまま、どうやって就活を指導できるのか」「職種ごとの特性を知らずして子どもの適性を語れるのか」――こんな声があちこちから噴き出すこともあるでしょう。
実際、諸外国と比べて日本の教師が社会経験に基づいたリアルな進路指導を行えていないことは、「進路指導が形骸化している」との批判につながっています。
まさに「画餅(がべい)に帰す」――机上の空論に近い指導が横行し、子どもたちのキャリア選択が偏ったものになる危険性すらあるのです。
さらに深刻なのが、教師を取り巻く「働き方改革」の迷走です。
OECD調査では、日本の中学校教師は週あたり53.9時間も働いており、参加国で最長。
しかも、日本の教師は授業時間そのものはOECD平均を下回る一方、書類作成や部活動、会議などの事務に追われているという、奇々怪々(ききかいかい)な労働状況に置かれています。
ところが、教員数を増やせば解決かというと、そう単純ではありません。
実は、日本では「教員不足」と呼ばれる事態が既に各地で表面化。
令和3年度の調査では、小中学校あわせて1,586校において2,086人の教師が不足していたといいます。
2023年度の教員採用試験でも、小学校の倍率は過去最低の2.2倍を記録。20自治体で1倍台という厳しい実態が明らかになりました。
選抜機能が弱まれば質的不足がますます進み、新卒教員の“レベル低下”を憂う声も少なくありません。
この袋小路のような状況から逃れようとするには、単に教員を増やすよりも「専門的業務を外部に任せる」体制を整える方がはるかに効果的です。
つまり、カウンセラーや事務スタッフ、そして“キャリアアドバイザー”などの外部人材を積極的に導入し、教師が本来の教育に専念できるよう仕組みを変えるべきなのです。
こうした中、欧米では昔から進路指導を専門とする「キャリアカウンセラー」「アドバイザー」が学校に常駐するケースが多く見られます。
企業で実際に働いた経験のある人が、子どもたちの興味関心や適性を踏まえて就職活動をサポート。教師は教科指導に集中し、進路相談は専門家に託すという分業体制が進んでいるのです。
いまや社会は複雑怪奇(ふくざつかいき)で、一つの正解が存在しない時代。
AIやDXによる仕事の変革が激化するなか、子どもたちが将来に不安を抱くのは当然です。
そこで、仕事のリアルを知る専門家が“ナビゲーター”として進路を共に考える存在こそが求められています。
進路指導を「教師一人の肩」に背負わせるのは、もはや非現実的なのです。
ただし、忘れてはならないのは、教師自身が「悪」なのでは決してないということ。
多忙化や過重労働、社会経験不足に陥るのは、すべて時代にそぐわない制度設計や、十分な外部人材の活用が行われていないことに大きな要因があります。
教員免許を取得する過程で、社会経験やビジネス知識を学ぶ機会も十分ではない。
そのうえ、進路指導や保護者対応、部活動指導まで、あらゆる業務が教師に丸投げされているのです。
そんな苛烈な批判の声が飛び交うのも事実ですが、四面楚歌(しめんそか)状態に追い込まれているのはむしろ教師の側です。
この苦境を打破するには、以下のような大胆な発想転換が求められます。
少子化やグローバル競争、急速なテクノロジー進歩が同時並行で進む時代。
「旧態依然」とした学校システムのままでは、将来の社会を担う子どもたちが取り残されてしまう可能性は大いにあります。
学校は、学習指導・人格形成・社会化のプロセスを担う崇高な場所であると同時に、社会への入口でもあります。
その出発点である進路指導が、「内情を知らない部外者」ばかりで行われているのは、あまりに心許ない。大切なのは、教師一人ひとりを糾弾するのではなく、時代に即した分業体制の構築です。
こうした要素が欠けた状態では、子どもたちの可能性も閉ざされてしまいかねません。教師に全責任を負わせる構造を放置しては、“本末転倒”です。
日本の教師が「世間知らず」と揶揄されるのは、制度面の欠陥や社会人経験を積むチャンスの少なさが生み出した、ある種の“悲劇”と言えます。
しかし、これは教師個人の問題ではなく、社会が招いた構造的な歪みです。だからこそ、時代に合った対策を講じれば、必ず改善の余地がある。
最前線の教育と実社会のキャリア支援――。
両者が手を携え、職業指導・進路相談の専門家を学校へ導入することで、教師の多忙感を軽減し、子どもたちはより多角的な視野を得られます。
教師自身も専門職としての誇りを持ち続け、教育の質をさらに高められるはずです。
「一将功成りて万骨枯る」――教師が倒れるまで働いても、本当に子どもたちの未来は拓けるのか。
今こそ私たちが進むべきは、教師とキャリアアドバイザーとの共存共栄という新しいステージではないでしょうか。
教師は悪くありません。
悪いのは、過去の成功体験にしがみつき、新たな人材配置や外部との連携を怠ってきた社会全体の慣習です。
「教師だけに“進路指導”を丸投げするのは、もはや限界」。
日本の未来を担う子どもたちのため、そして教師自身の働きやすい環境を実現するために、いま必要なのはキャリアアドバイザーの導入と制度改革にほかなりません。
最後に――「生徒の夢」と「教師の働き方」を支えるのは“社会”です。学校が子どもたちと共に歩むためにも、変革を止めるわけにはいきません。
教師が生き生きと教壇に立ち、キャリアアドバイザーが子どもの将来を一緒に描く――そんな協働の未来こそが、日本の教育を再生し、子どもたちの未来を拓く鍵となるはずです。