2024年問題がバス業界に大きな影響を及ぼす中、先ずは具体的にどのような影響があるのかを掘り下げてみましょう。その上で、一筋の希望の光として注目される十勝バスの驚異的な成功物語を紹介。厳しい業界状況の中で黒字化を達成し、地方路線バス業界に新たな風を吹き込む取り組みを続ける十勝バス。2024年問題という厳しい状況の中でも、努力と革新によって未来は開けることを、十勝バスの事例は教えてくれます。
2024年、バス業界は大きな転換点を迎えます。そう、あなたが耳にしている「2024年問題」の話です。多くの人がこの問題の影響について何となく聞いたことがあるでしょうが、具体的にどのような影響があるのかを掘り下げてみましょう。
問題の背景には、2019年に施行された「働き方改革関連法」があります。この法律は、過労死の防止やワーク・ライフ・バランスの改善が目的で、具体的には、時間外労働の上限が法律で規定されました。上場企業や中小企業にはすでに適用されているため、多くの方がこの変更に慣れているでしょう。
しかし、バス、タクシー、トラックのドライバーなど、特定の職種については、その労働環境の特殊性を考慮して、2024年4月まで施行が猶予されていました。この猶予期間の終了が、「2024年問題」として注目されているというわけです。
2024年問題が待ったなしのバス業界。具体的にどのような影響があるのでしょうか。2024年4月から、自動車運転者の労働時間の上限は原則月45時間、年360時間となります。特別な事情がある場合でも年960時間までと制限されます。これにより、運行スケジュールの調整や人員の確保が大きな課題となります。
特に重要なのは、1日の休息時間の変更です。従来は継続8時間の休息が必要でしたが、改正後は基本11時間、最低9時間となります。これは、ドライバーの休息時間が少なくとも1時間伸びることを意味し、1日の拘束時間が最大16時間から15時間に短縮されることを意味します。
この変更は、運転者の健康と安全を保護する一方で、バス業界にとっては大きな挑戦です。例えば、バス会社は運行スケジュールの見直しやドライバーの増員を迫られるでしょう。また、長時間労働の是正は、人手不足問題をより顕著にするかもしれません。
この問題は、単にバス業界に限らず、我々の日常生活にも影響を及ぼします。公共交通の利便性が変わる可能性があり、その結果、通勤や旅行の方法にも変化が生じるかもしれません。
バス運転者の長時間労働とその影響について、もっと詳しく見ていきましょう。2024年問題が話題になる中、多くの人が知らないのは、バス運転者がどれほど長時間働いているかということ。
問題の根本にあるのは、人手不足です。交通事業者は、限られた人員でダイヤを守るために、運転者に長時間労働を強いることが多いのです。特に路線バスでは、朝の通勤・通学時間帯に大きな需要があり、運転者は早朝から長時間勤務を強いられます。夕方のピーク時も同様です。
過去のデータを見ると、バス運転者の1日の拘束時間は平均14.8時間にも及びます。2024年4月からは1日の拘束時間が15時間に制限されるため、この長時間労働の実態は、新しい基準に合わせる必要があります。
では、この改正が路線バスのダイヤにどのような影響を与えるのでしょうか。一番の懸念は、路線バスの運行便数が減ることです。具体的には、夜間から深夜の運行便数の減便や、通勤・通学時間帯のバスの減便による車内の混雑、昼間時間帯の減便などが考えられます。実際には、すでに一部の事業者が減便を行っています。
十勝バスも2023年に減便することで、バス運転手の労働環境は大きく変わったそうです。詳しくは、最年少バス運転手のインタビューをお読みください。
では、どうすればいいのでしょうか?運輸業界は「長時間労働」と「低い賃金体系」、そして「人手不足」という負のスパイラルに陥っています。コロナ禍の影響と燃料費の高騰も加わり、業界は厳しい状況に置かれています。
この問題の解決策としては、賃金の適正化と長時間労働の是正が必要ですが、これは簡単なことではありません。社会全体として「輸送に対する適正な対価」を認識し、適正な価格を払う必要があります。特に、地域の輸送に必要なコストを誰が負担するのか、という問題は、地域や行政など関係者間で真剣に考える必要があります。
バス事業の存続には、経営の改善と運送経費の適正化が不可欠です。しかし、単に値上げすることは利用者の離反を招くため、慎重な検討が必要です。人手不足や長時間労働の問題を解決し、持続可能な経営モデルを構築することが業界の最大の課題と言えるでしょう。
「路線バスの廃止」という問題は、日本全国で深刻化しています。特に2024年問題による運転手の時間外労働規制は、既存の運転手不足問題にさらなる圧力を加え、この影響が、地域住民の生活にも大きな変化をもたらしています。
大阪府南部で運行されていた「金剛バス」の全線廃止は、この問題の一例です。金剛バスは、地域の子供たちの通学手段としても重要な役割を果たしていました。特に「大阪芸術大学」への通学手段として、最寄の近畿日本鉄道(近鉄)の貴志駅からのメイン交通手段でした。しかし、運転手不足と経営難により、路線の運行を断念せざるを得なくなりました。
卒業生で現在は、十勝帯広市に住むAさんは、
「駅から学校まで歩くと30分以上かかりますよ。金剛バスがなくなったら、通学は大変だと思います。学校までの田園風景を眺めて歩くのもいいですが、夜は怖くて歩けませんよ」
と話します。
金剛バスの廃止は、富田林市立東条小学校の児童に大きな影響を与えているそうです。多くの児童がバスを利用して登下校していたため、前述のAさんが言う通り、バスのなくなることによる通学の安全性が懸念されています。
路線バスの廃止は、地域コミュニティにも影響を及ぼします。バスが運行されていない地域では、高齢者や交通手段を持たない住民の移動手段が限られてしまいます。また、地域内の小売店やサービス業も、顧客の減少に直面する可能性があります。
行政によるコミュニティバス方式の導入が検討されているものの、これもまた運転手不足という同じ問題に直面。行政が経費を負担することになると、結局のところ税金の使用についての議論が生じ、バスの運行を担う事業者を見つけることも難しい状況です。
この問題の根本的な解決には、運転手の待遇改善、労働環境の改善、そして新たな人材の確保が必要です。しかし、これらは短期間で実現するのは困難であり、地域コミュニティ、行政、そして運輸業界全体で協力し合って問題解決を図る必要があります。
2024年問題がバス業界に多くの課題をもたらす中、十勝バスのように黒字化を達成し、成功の道を切り開いている事例もあります。十勝バスの取り組みは、厳しい業界状況の中での希望の光と言えるでしょう。
十勝バスの野村文吾社長のリーダーシップの下、同社は2011年から2019年にかけて9年連続増収を実現。これは単なる成功ではなく、地方バス会社として前例のない復活の物語です。十勝バスの取り組みは多くのメディアで取り上げられ、書籍化され、ミュージカル化されるほどの話題となりました。
十勝バスの成功の背後には、利用者が激減したという深刻な問題がありました。それにも関わらず、野村社長は戦略的な営業強化に取り組み、地道な努力を重ねることで業績を改善しました。これは、バス業界における地方バス会社として全国初の快挙と言って良いでしょう。
十勝バスではコロナ禍で何度も一時的なバス便の削減を余儀なくされ、2023年8月には路線バスと学校への送迎便を含む計6路線16便を廃止し、12路線37便の運行回数を減らす大規模なダイヤ改正を行いました。
それと同時に、運転手を確保し、利用者のニーズを理解するために管理職に大型二種免許の取得を募り、4人が今年3月までに免許を取得。4月からはこれらの管理職が運転手として勤務を開始し、特に平日の朝の便数が多く運転手が不足しがちな時間帯を中心に、週に約10便を4人が交代で担当しています。
「やれることをやりつつ、新たな一手を打つ」
これが十勝バスの真骨頂です。
十勝バスが取り組んだのは、スマートバス停、マルシェバス、運送会社とのコラボレーションなど、多角的なアプローチでした。このような施策は、バスを活用したまちづくりを目指す野村社長のビジョンに基づいています。これらの施策は、バスターミナルを単なる乗降場所ではなく、地域の人々が集まり、交流する場所へと変えることを目的とし、まちづくりそのもの。
2023年11月に帯広市郊外にオープンした「大空ローカルハブ」は、十勝バスが宅配会社や地元卸売市場、地元の商店・住民などと連携。バスターミナルやカフェ、それに物販の機能を併せ持った拠点施設を整備しました。この拠点は通常のバスターミナルとは異なり、地域のヒト・モノ・カネを繋げるローカルハブとしての役割を果たすことを期待されています。
この十勝バスの例は、2024年問題という厳しい状況の中でも、努力と革新的なアプローチによって成功を収めることができることを示しています。バス業界での勤務は、このような成功事例を生み出す機会に満ちており、将来は安泰である可能性が高いと言えるでしょう。
最後に、2024年問題はバス業界に多くの課題を投げかけていますが、十勝バスのような成功事例を参考にすることで、他のバス会社も新たなビジネスモデルを構築し、業界全体の再生を目指すことが可能です。革新的な発想と地域コミュニティへの深い理解を持って取り組めば、困難な状況を乗り越えることができるでしょう。