創業106年、十勝の建設業を牽引する萩原建設工業。不変の理念「建造物を通して人々の安全・安心を確保し、幸せにする」と、それを支える「闘魂一途」という精神で次の100年に向けた挑戦が注目されています。宇宙や農業ベンチャー企業への出資、カンボジアのサッカースタジアム建設に携わる海外進出、道東初の大型野外音楽フェスの開催など、十勝を舞台に、地域社会への深い貢献と革新的な取り組みを続ける同社。そんな十勝で最も古くて・新しいゼネコン「萩原建設工業」の萩原一宏副社長にインタビューしました。
取締役副社長兼社長室長 | 1980年生まれ。帯広市出身。北海道帯広柏葉高等学校、東海大学を卒業後、明治大学大学院を修了。その後、東京の経営コンサルティング会社、建設会社勤務を経て2013年4月に執行役員営業副本部長として萩原建設工業株式会社に入社。22年6月に取締役副社長兼社長室長に就任。
日本を代表する経営コンサルティング会社で経験を積んだ萩原一宏氏。東京からUターンした際、「本当は帰ってきたくなく、今でも帰ってきたときの航空券を持っています。自分がいつ戻ってきて、どのくらい経ったかを忘れないためです」と話します。
あれから10年……。
萩原建設工業株式会社として、創業100周年(2018年)の節目には、創業者から受け継いだ「闘魂一途(とうこんいっと)」という精神を胸に、次の100年に導くため、様々な革新的な取り組みの展開を開始。
萩原氏が「創業者は常に前向きに挑戦するという意味で『闘魂一途』を用いたのですが、現代にあわせてチャレンジ精神を持って物事に取り組むという解釈で再び掲げました。創業当時は誰しもがベンチャーです。会社は大きくなるにつれて保守的になっていきます。安定したという意味では良いのですがアグレッシブさが欠けていました」と語る通り、創業100年を契機に打ち出したのがベンチャー魂の再燃でした。
ご存知の通り、いま十勝・大樹町では宇宙ビジネスが盛り上がっています。同社はホリエモンこと堀江貴文氏が出資した宇宙分野のベンチャー企業、インターステラテクノロジズ株式会社(IST)へ投資。
ISTには自社の技術者を派遣し、ベンチャー企業特有の風土を体験させているそうで、「ISTの稲川社長と共に4〜5年前から計画していました1年間の契約を結び、技術や支援を提供してきましたが。このたび、延長が決定。派遣社員からも『多忙ですが面白い』と刺激を受けているようです」と話します。
続いて、現在は北海道を代表するスタートアップとして注目される、食糧問題解決を目指す農業IoTソリューション企業「株式会社ファームノート」へ出資するなど、ベンチャー企業との接点を増やします。
「活気あるベンチャー企業との関わりを通じて、彼らの精神を当社に取り入れたかったからです」(萩原氏)。
安定よりも変化や刺激を求めるベンチャー気質へのマインドチェンジは新たな地域との関わりをも生み出しました。2018年夏、十勝・帯広で最大級となる野外音楽フェス「TOKACHI ALIVE」を開催。「これも、1人の若手社員の『十勝でフェスがあったら面白いのに』との一言がきっかけでした。とにかく新しいことに挑戦して行こうという機運が若手社員にまで浸透していき、当社にとってターニングポイントとなりましたよ」(同)
そして、「チャレンジ精神を持って物事に取り組む」と解釈した創業者の理念「闘魂一途」の体現は、カンボジアへの海外進出につながります。
「東京の知人の紹介から、アンコールワットがあるシェムリアップでプロサッカーチームを運営する日本人オーナーとつながったことがきっかけです。当初は、地方の中小ゼネコンが海外進出を考える事例は少なく悩みました。それでも、従業員から『やりたい』と声を挙げてもらえたことや、100年間築き上げた経験を生かせば、規模や技術的にも遜色なく、支援できると判断しました」(萩原氏)
初の海外案件は、発注者の意向を実現するために、設計・施工企業を調整・統括するコンストラクションマネジメント(CM方式)で実行。発注者と受注者(地場の建設会社)の間に入って、予算交渉や技術確認などの証明をしていくことで、きちんとサッカースタジアムが建てられるよう動くのがメイン。すでに、動き出していて英語でのやりとりが続く中、担当者の英語力はみるみる上達しているそう。
宇宙分野のベンチャー企業や農業IoTソリューション企業への出資により、ベンチャーマインドを取り入れ、保守からの脱却を図った萩原建設工業。100周年を機に、海外進出や音楽フェスの開催など、挑戦的な取り組みは多岐にわたります。
風通しの良さとベンチャー気質を大切にする組織作りについては「自ら考え、動ける環境を作り、自由闊達にメンバーが"やりたい"を実現できる会社にしていきたいですね」と語る通り、ホームページのリニューアルやDX推進も従業員に委ねる組織へと変貌。一例として、十勝に興味・関心を持つ都市圏等の学生と繋がりを持つプラットフォーム「十勝フィードアクションラボ」に自社社員を派遣し、学生たちと共に新しい広報のアイデアを形にしました。
「十勝フィールドアクションラボでは、インターンシップを単なる若者への価値提供とは考えず、実際には社員研修の一環と捉え、インターン生がどのように考え、感じているかを理解することで、社員自身の視野を広げることに繋がりました。インターンシップの最終日には、彼らにプレゼンテーションを行ってもらい、その内容は社長をはじめとする社員にも刺激を与えてくれたんです」(萩原氏)
一方で、社員のモチベーション向上と効率的な働き方を目指すために評価制度や管理システムも導入し、残業時間の削減や働き方改革を推進。管理職には新しいアプローチや仕事のやり方を考えるよう促しているそうで、環境改善にも余念を欠かしません。さらに、技術革新を通じて地域社会にさらに貢献し続けることを目指しており、DX推進や健康経営優良法人認定の取得など、多くの受賞歴がそれを証明しているほど。
100周年を契機に変貌しつつある萩原建設工業。萩原氏にとっては、帰りたくなかった場所が、今では自分を輝かせる最高の舞台に変貌したのではないでしょうか。
萩原氏は、自身の体験を通してUターンについてこう語ります。
「つまらないを自分で解決できるはず!と前向きにとらえ、少しじずつ進んできたのを覚えています。地方へのUターン就職は、自分自身の力で“つまらない”と感じる環境を変えることが大事です。地方での生活が持つ可能性を信じることで、前述のフェスの開催など、地域に新しい価値をもたらす活動ができました。地方には自分自身で何かを始め、育てていく醍醐味があります。社是ではありませんが、場所が変われども『挑戦』の二文字が人を変え、生活を豊かにしてくれるんです。だからこそ、地方でも充実した生活とキャリアを築くことが可能であることを伝えていきたいです」(萩原氏)
萩原一宏氏が描く未来は、建設業を超えたものでした。未来志向の取り組みと持続可能な事業展開への強いコミットメント。もちろん、全ては企業として、親しい顧客との長期的な関係を築き、国内外の新たな市場を開拓する姿勢でもあります。
もちろん、単に事業の成功を追求するだけでなく、地域社会との深い結びつきを重視し、地域の魅力と可能性を高めることに情熱を注いでいることもわかりました。
「十勝管内の建設業の若手経営者でつくる帯広二建会で実施した、約2000人の高校生アンケートで『十勝は好きだけど、帰ってきたいとは思わない』ということがわかりました。だからこそ、我々の役目は地方の若者たちが地域に残りたい、またはいつか帰ってきたいと思うような十勝を作ることなんです。地域貢献と新しいアイデアや挑戦を歓迎し、社員一人ひとりの可能性を最大限に引き出する従業員への貢献は両輪です」(萩原氏)
いかがでしたでしょうか。萩原建設工業の取り組みは、求職者にとって魅力的な機会を提供するだけでなく、地域社会への深い貢献を象徴していました。萩原氏の言葉を借りれば、「結果を出すには準備8割、そして諦めずに続けること」であり、これが同社が十勝の未来を築くための情熱の証となっているのでしょう。