保育士たちの転職後の安心とキャリア成長をサポートし、保育現場の環境改善を実現するため、帯広葵学園が積極的な職員研修を導入しました。保育業界においては、独自の課題が次々と浮上しています。今回の研修では「不適切な保育の未然防止と望ましい関わり」「パワーハラスメントの防止」にフォーカスを当て、約150人の職員が研修に参加しました。
講師陣:安岡知子(人財コンサルタント/特定社会保険労務士)、鳥飼胆識(鳥飼コンサルティンググループ取締役)
社会保険労務士法人人財総研役員株式会社福祉総研KYOSTA事業部事業部長教育・保育業界の動向に精通しており、園に特化したコンサルティングを行っている園での勤務経験を活かし、それぞれの法人の現状を踏まえた「現実的なアドバイス」「実施可能なご提案」など「人」に関わる分野を中心に園経営、園運営をサポート保育所、認定こども園、幼稚園の団体様主催研修において、講演講師を多数務める『保育ナビ』(フレーベル館)にて「それぞれの園のための就業規則を考える-コンプライアンス×内部統制×マネジメントの視点-」を連載(平成29年4月号より2年間)
学習院大学法学部卒。トラブルを未然予防する「予防法務」的な視点からハラスメント対策のコンサルティングを行っている。関連会社の弁護士らと連携しながら法律的・経営的・労務的なアドバイス・研修を実施。パワハラ対策ドラマ『織田信長と学ぶ業績UPのパワハラ対策』にてプロデューサーとして携わる。
先ずは、教育・保育業界の動向に精通する安岡先生は「不適切な保育」の未然防止と「望ましくない」と考えられるかかわりの改善について講演しました。
こども家庭庁の調査によれば、914件もの「不適切な保育」が確認され、保育施設での虐待事件が報道されるなど、業界内の問題が浮き彫りになりました。しかし、現場では「不適切な保育」の定義が不明確であり、職員がその境界線を見極める難しさが指摘されています。
「虐待等」と疑われる事案
虐待(身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待に該当する行為)に加えて
「こどもの心身に有害な影響を与える行為」を含んだ行為
「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」
(子ども家庭庁、R5年5月12日公表)
全国保育士会の「保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト」には「不適切な保育」と言えないものも含まれており見直されました。
「虐待」「虐待等」「不適切な保育」「望ましくないと考えられるかかわり」とは何かを理解し、保育の質の向上に向け具体的な対策が必要と話されました。
その上で、先ずは、全国保育士会が提案する人権尊重のためのセルフチェックリストを有効に活用することを提案。「分からないことがあっても即座に放棄せず、好ましくないと感じられる相互関係の改善に向けて、現場だけでなく経営陣も徹底的に学習し、その内容を現場で説明することが重要です」と話しました。
さらに、保育業界の2025年問題に触れつつ「少子化に伴う園児数の減少といった、園経営の困難さを理解する必要があります。園の存続が危ぶまれる場合、それは保育者の雇用と給与にも影響を及ぼすことを認識しましょう」と強調。
現在は、保育士不足が問題とされていますが、2025年以降は保育者の転職が難しくなる可能性があることも説明し、園内で「対話や振り返りの場」を設けて、みんなで問題を改善する努力が重要ですとも話しました。
その後は、実際にワークショップを通じて、好ましくない行動や言葉の使い方について具体的に取り組んでいきました。
続いて、ハラスメントに詳しい鳥飼先生が登壇。
鳥飼先生は、職場においてハラスメントの影響を無視することはできないと述べます。人を雇う組織であれば、避けられないのが組織や職務への不適応、個性や価値観の違いから生じる摩擦がハラスメントとして現れるのは当然のことだからですね。
とはいえ、パワハラを含む様々なハラスメントを効果的に予防し解決するためには、労働法務と人事労務、産業心理学と産業保健の専門知識を持つ弁護士の助言とサポートが必要です。
また、ハラスメントが発生した場合の悪影響について、「例えば、職員の定着率が低下することや、採用や教育におけるコスト増加、慰謝料や労災の申請、SNSや報道による炎上などが挙げられます。特に、情報の遮断が生じ、ヒヤリハットの報告が滞ることで就業環境が悪化することが問題となります」と事例を挙げて解説。
その上で、「パワーハラスメントの予防には、日常業務を見直す日々の努力が欠かせません。そして、指導とハラスメントの境界を明確に理解することだけでは問題の解決には至らないこと、上司だけでなく集団から上司へのパワハラや同僚からのパワハラなど、さまざまな形で存在すること」と複雑なハラスメントの理解することが大事とも解説。
鳥飼先生は、業務指示を具体的に説明することの重要性も強調しました。
たとえば、「この資料をコピーしておいて」という指示ではなく、「13時の会議で使用するために、20枚の白黒両面印刷をし、12時55分までに私に提出してください」と具体的な指示を出すことが大切です。
今回のハラスメント対策の学習では、楽しくない限り、意識や行動の変化は期待できないと述べ、実務的な内容とエンターテインメント性を兼ね備えた映像コンテンツを使用して学習が進められたことを紹介。
最後に、2022年4月1日からは職場におけるパワーハラスメント防止措置が全ての企業で義務化されていることに注意を喚起し、保育現場でもハラスメント問題に対する理解と関心を高め、ハラスメントとされる行動に注意を払うことが求められていることを述べました。
参加した職員たちは、子どもへの言葉遣いには気を付けてきたと話しつつも、「足りない部分もある」という認識から今後の改善を続ける意欲を口々にしていたのが印象的でした。
ハラスメントについては、研修が自治体レベルでも行われるべきだとの意見や、職員の学ぶ姿勢の強さ、未来の子どもたちへの責任感が多くの参加者から感じられた研修となったのではないでしょうか。
いかがでしたでしょう。帯広葵学園の取り組みは伝わりましたか。すべては、子どもたちが楽しみながら成長し、個々の可能性を最大限に引き出すために描いた教育方針に乗っ取った研修プログラムです。今後は、保育士や園関係者が皆で力を合わせることで、さらに子どもたちの可能性が高まると信じています。
現在、「帯広葵学園」ではいくつかの業種でスタッフを募集中しています。気になる方は求人情報をチェックしてください。