2025年11月26日(水)、帯広信用金庫にて「地方採用の常識を壊せ。AI×移住で“人手不足”解決に貢献する新戦略」と題したセミナーが開催されました。

本セミナーは、移住マッチングプラットフォーム「スマウト」を運営する面白法人カヤック、AIを活用した採用支援を手がける株式会社タレントエンパワーメント、そして十勝エリアに特化した採用メディア「TCRU(ティクル)」を運営する株式会社スマヒロ、帯広信用金庫の4社協賛により実施されました。(後援:帯広市)
採用の最前線で起きている変化や、移住者を受け入れる地域の姿勢、そして生成AIがもたらす新しい採用活動について、3名の登壇者が熱く語りました。当日の様子をレポートします。

トップバッターは、十勝の求人メディア「TCRU(ティクル)」を運営する北川氏。「地方採用の地殻変動」をテーマに、数字には表れない地方雇用の構造的な課題について語られました。
北川氏はまず、地方の人口減少という現実に触れつつも、「求人倍率などの数字上では、実は人は『足りている』(求職者数が求人数を上回るケースもある)」という逆説的な現状を指摘。問題は「人がいない」ことではなく、「その地域・企業に行きたい理由が見つからない」ことにあると分析しました。

特に地方特有の課題として、「人間関係の濃さ」がもたらす弊害に言及。「目立つと叩かれる」「空気を読まなければならない」という文化が、挑戦者や若者の判断力を奪い、結果として「自分で意思決定できない求職者」を生んでいると警鐘を鳴らしました。
その上で、これからの採用に必要なのは「条件」ではなく「共感」であると強調。「誰と働くか」「尊敬できる先輩がいるか」が若者の判断基準になっている今、企業は求人票を出すだけでなく、SNSなどを通じて「共感される企業文化(ファン作り)」を発信していく必要があると訴えました。

第2部は、移住スカウトサービス「スマウト」の宮部氏が登壇。全国の移住関心層8万人以上のデータをもとに、移住者が「移住を決断する瞬間」について解説しました。
宮部氏は、移住には「地縁型(実家がある等)」と「テーマ型(暮らし方・働き方を重視)」の2種類があると説明。近年は後者の「テーマ型」が増加しており、特に「今の暮らしを変えたい」「ウェルビーイングを重視したい」という動機が強いと語りました。

しかし、移住には「制約の壁(仕事・住居)」と「不確実性の壁(本当に暮らしていけるか)」という2つのハードルが存在します。これらを突破する鍵として宮部氏が提案したのが、「暮らしと仕事のパッケージ化」です。
「仕事情報だけでは、その地域での生活イメージが湧かない。ご飯だけでなく、おかず(暮らし・環境)とセットの『幕の内弁当』として提案することで、移住者の不安を払拭できる」と比喩を交えて解説。企業に対して、単なる求人情報だけでなく、地域でのライフスタイルも含めたトータルな提案の重要性を説きました。

第3部では、池上氏が「生成AI」を活用した採用業務の革新について実演を交えてプレゼンテーションを行いました。
池上氏は冒頭、生成AI(ChatGPTやGemini等)の仕組みを「膨大なデータに基づくオーディエンス(多数決)のようなもの」と解説。完璧な正解を求めるのではなく、「7〜8割の完成度でいいから、素早く形にする」ためのパートナーとして活用すべきだと述べました。

デモンストレーションでは、以下の3つの生成AI活用事例を披露しました。
「生成AIは魔法の杖のように万能ツールではないが”指示次第で成果を出す、タフで優秀なアシスタント”」と締めくくりました。

セミナー後半は、登壇者3名によるパネルディスカッションが行われました。
北川氏は「求職者の『居場所』と『未来(3年後の姿)』を明確に提示できている企業」と回答。池上氏も同意し、「『営業募集』という役割だけでなく、『なぜあなたが必要なのか』という存在価値を伝えることが重要」と補足しました。
宮部氏は、内定後の最大のハードルとして「家族(親や配偶者)からの反対」を挙げました。これに対し池上氏は、「内定者本人だけでなく、その家族(親や配偶者)に向けた『安心材料(会社の安定性や将来性)』をそれぞれにあったタイミングで提供することが、辞退防止の特効薬になる」と実践的なアドバイスを送りました。

都市と自然が調和した環境や「十勝晴れ」は、生活の質とメンタルを守り長期定着を促す「見えない福利厚生」として機能すると挙げました。さらに、原風景が与える直感的な魅力は移住決断の決定打となり、他地域との明確な差別化を実現すると回答しました。
「人間関係」が退職理由の多くを占める中、北川氏は「売上を作るが周囲に悪影響を与える人材を、経営者が容認しないこと」の重要性を指摘。組織の文化を守ることが、結果として長く働ける環境を作ると結論づけました。
セミナー終了後はネットワーキングが行われ、参加者と登壇者が熱心に情報交換を行う姿が見られました。AIという「手段」と、十勝ならではの「暮らし」という価値。この二つを掛け合わせる戦略が、地域の人手不足解消におけるブレイクスルーになることを予感させる一日となりました。