十勝に移住した人を「十勝移住物語」として紹介します。2022年夏、生まれたばかりの双子ちゃんがお試し移住体験で北海道十勝にやってきました。パパさんは日本最大級の不動産会社に勤務する小正茂樹さん。双子ちゃん誕生を機に1年間の育休を取得。大阪からママさんと4人で北海道十勝にやってきました。移住先での出会いや、日本一の大家さんとして感じた「住むこと」とは。小正家のプチ移住体験でと双子ちゃんの成長日記を紹介します。
日本最大級の不動産会社。別名、日本一の大家さんに勤務する小正茂樹さん。奥さんから「双子ちゃんが産まれるよ」と告げられるや否や、約1年(11ヶ月)の育休取得を決意。
当時の心境について小正さんは「子育ては1人じゃ無理と判断したからです」ときっぱり。とはいえ、周囲に半年以上の育休を取る人は皆無。日本の男性の育休取得のハードルの高さを目の当たりしにつつも、粘り強いネゴシエーションを実行します。
「法律が改正され、会社の制度的には男性でも育休を促進する姿勢を打ち出してはいましたが、実際に取得する人は少なく、制度と現実のギャップに開きはありました。それでも、妻のため、産まれてくる双子ちゃんのために、諦めず、いかに周囲の同僚らに迷惑を掛けずに取得できるかを考えましたよ」と振り返ります。
そんな粘り強い小正さんの交渉や準備に甲斐あり、最後は「会社としても、育休取得ウェルカム!」という空気を作り出すことに成功したそう。
取得決定後、ふと脳裏に「育休中は会社に通勤しなくてもよいのだから、住む場所はどこでもよいのでは?_せっかくならば空気の良い北海道でゆっくり子育てができたら」と大学生時代に、その悠然さに圧倒させられた北海道を思い出し、プチ移住を画策します。
北海道は移住促進・関係人口づくりに躍起になっていました。そのおかげで、様々な市町村でお試し移住やプチ移住体験といったキャッチフレーズのもと体験移住のできる『移住体験住宅』なるものまで用意されていました。
さすがは日本一の大家さんに勤務する小正さん。住宅関係の情報収集はお手のもの。あっという間に情報を集めます。
それによると、滞在可能期間は最短2週間で、多くは1~3か月間だそう。移住体験プログラムは各市町村で個別に募集されており、その条件はまちまちですが、「そのまちのことが気になる!」「将来も含めて移住や関係人口としてしっかりまちと関わっていきたい」という気持ちがあれば良いとのこと。
注意する点は、プチ移住を検討するなら年末までがベスト。なぜならば、それぞれの市町村で多少の申込期間は異なるものの、多くが12月頃~2月中旬に集中するからです。
住宅のプロが調べた結果、小正さんが選んだ場所は北海道の中でも、十勝地方!豊頃町と上士幌町の二拠点にプチ移住する事を決めました。
住む期間は、最初の2か月間を豊頃町、残り4か月間を上士幌町で過ごしました。
2022年7月、梅雨なし、初夏の気持ちのより北海道十勝に降り立った場所が豊頃町です。
豊頃町は、北海道十勝の東側に位置する人口約3000人の小さなまちで、海や汽水湖、十勝川の河口部分があります。森林面積は約6割で、平地部には大規模農家さんが多くいます。森林水産業が集積しており、十勝開拓の祖となる大津エリアがある歴史あるまち。また車の混雑などもなく、帯広市内や帯広空港へのアクセスも良いため、とても暮らしやすいまちというのが特徴です。
小正さんは、物件を探す際に、長期で過ごして家が気持ちよさそう、住宅がかっこいいという2点を重視しました。
実際に小正さんが豊頃町で2か月間住んだ住宅は、広さが1LDKで109㎡、平成24年に経ったそこそこ新しい一軒家です。
「地元木材をふんだんに使った内装が特徴的な、圧倒的にかっこいい家でした」(小正さん)
家賃は水道・電気代を含めて月額68,000円。都会で同じ暮らしをすれば家賃は倍から3倍はするでしょう。キッチンはオール電化で、使いやすくスッキリしており、土間がある室内には暖炉もありました。
庭には、近隣農家さんがサポートしてくれる畑を完備。そこでは、トウモロコシ、ズッキーニなどの採れたての野菜が食べられるという贅沢な食のおまけついています。
立地としては、スーパーなどの買い物施設へは、車で20~30分。帯広空港まで30~40分、人口16万人が住む十勝の中心都市・帯広市内までは車で40分程、北海道を代表するコンビニエンスストア「セイコーマート」までは徒歩3分、JR豊頃駅には徒歩10分という好立地な物件です。
何より、プチ移住体験専用の住宅から車で約5分の場所には「とよころ物産直売所」という産直市場があり、そこでは高品質で安価な農産物を買うことができます。
生活について小正さんは「不便はまったくありません。初夏の陽気が降り注ぎ、毎日が自然に生かされている充実感を感じる場所でした。子育てには最高の場所でしたよ」と回想します。
小正さんは、豊頃町の良さについて日常をこう語ってくれました。
「豊頃町では、毎月2回『赤ちゃん広場』というママ&お子様が集まる会が開かれます。そこでは情報交換ができるだけでなく、夏祭りなどのイベント、体重&身長測定などの乳児の成長記録も実施。ここでは誕生日が一日違い!という双子ちゃんに出会い、家族ぐるみで仲良しになりました」(小正さん)
町内で催されるお祭りは、子どもと一緒に楽しめるちょうどいいサイズで、お財布にも優しいそう。お祭りの準備は短期間ですごいスピード感で進められます。
通常では実現できないような屋外サウナ、色とりどりの飲食ブース、十勝のハンドメイド作家さんたちのエリア、短期間で準備がするにも関わらず、クオリティの高いお祭りです。ヒーローショーにくぎ付けだった双子ちゃんたちを、その後、大きな芝生の広場で転ばせて遊んだりもでき、家族の最高の思い出の一コマになったようです。
豊頃町には、おしゃれなカフェ「B&B丘」や、オーベルジュ「エレゾエスプリ」といったレストランもオープンし、田舎にいながら都会的なデザインで、豊頃町の産直素材を使ったおいしい食が堪能でき、充実の2か月間だったそうです。
「言葉では表現できなかったのが、豊頃町の人たちのやさしさでした。あれほど心の温かい人たちに囲まれて日常を過ごせたことはありませんしよ」(小正さん)
一方、都市づくりを得意とする小正さんが、豊頃町における課題も感じていました。ひとつは、車の運転が必須な点、ベビーカーが入れるお店かどうかの情報が少ない点でしたす。小正さんは、子育て中でも美味しいものが食べたかったため、ベビーカーが入れるかどうかの情報があまり得られないことに苦労したそうです。とはいえ、小正さんの助言を聞いた豊頃町の皆さんのことです。すでに改善しているかもしれませんね。
食と住と人に恵まれた所長を後にした小正さん夫婦と北海道の大地で大きく成長した双子ちゃん。次なるまちは北とかちにある上士幌町です。
上士幌町は、北海道のちょうどど真ん中に近い場所に位置する、人口約5,000人の町です。町の中心部に人口の約8割の4000人ほどが住んでいます。一方、町の北側は殆どが大雪山国立公園内にあり、人よりも動物たちの方が多く住んでいます。
そんな、上士幌町は驚くなかれ。自動運転の巡回バスが本格稼働していたり、ドローンでの宅配実験など最先端な取り組みが行われているハンセンスなまちでした。
上士幌町は、酪農・農業の盛んなまちでもあります。『ふるさと納税』においては、全国トップクラスの寄付額を誇り、子育て施策に多額の予算を注ぎ込んできた町です。結果、0~18歳までの子どもの教育・医療費用は基本無料。そのおかげで子育て層の移住が増えた「奇跡のまち」として全国的に知られているそうです。
その証拠にドメイン「ijuu.com」を取得しており、地方移住が流行り以前から移住政策に力を注いできたことがわかります。
そんな上士幌町には、短期用、中長期用を合わせて10戸以上のお試し移住体験用の住宅が用意されています。
また、上士幌町のプチ移住体験用の住宅の多くは、まちの中心部及び周辺に集中。徒歩でセイコーマート(小正さんの好きな北海道インフラ的存在のコンビニ)、スーパー、買い物施設、カフェにも行けます。その他、中心地には温泉施設、2021年にオープンした最新の道の駅、コワーキングオフィス、リモートワークに配慮したホテルなどもあり、とにかくプチ移住者や出張者には天国のような町なんです。
小正さんも「行けばすぐに移住者が増えるのがうなずけますよ」と太鼓判を押すほど。
閑話休題。小正さんが暮らしたお試し移住体験住宅に話を戻しましょう。
小正さんと奥様と双子ちゃんが住んだ家も中心地にありました。そのため生活インフラのほとんどが徒歩圏内。車を少し走らせると、日本一大きな公共牧場として知られるナイタイ高原が広がり、眼下にひろがる十勝の大パノラマを一望できる「ナイタイテラス」、全国のサウナーが訪れる貸切専用サウナ「ミルクサウナ」を持つ十勝しんむら牧場、廃校になった森の中の小学校校舎を活用したハンバーグが絶品のレストラン「トバチ」、ほっこり空間がすっごくステキな豊岡ヴィレッジなどなど、5000人のまちとは思えない、北海道を満喫できるすべてが揃う町が上士幌町です。
そんな暮らしやすく、最先端な取組を行う上士幌町を、小正さん一家は満喫していました。小正さん一家が住んでいたのは、2LDK75㎡&納屋・駐車スペース4台分付きの広さの一軒家。住宅としては現役の教職員住宅(異動の多い学校の先生向けの公務員宿舎)で、家賃は水道・電気代込で月額36,000。暖房・給油などの灯油代は別途実費負担ですが、破格の値段ではないでしょうか。
小正さん一家は、プチ移住後、毎月開催される誕生会と呼ばれる食事会にも参加。移住された方、体験移住している人たちが集まる食事会で、移住者が多い上士幌町ならではのイベントだそう。
また小正さんの奥様は、上士幌町ならではの取り組み、ママのホットステーションに毎週のように参加していました。これは、ママが主役の取り組みです。ママが子どもたちを連れてきて、ゆったりとしたひと時を過ごすことができるよう、元保育士さんなどが企画・運営をしています。
その他、上士幌町では、NPO法人上士幌コンシェルジュが運営する「かみしほろ情報館」があり、移住関係の問い合わせ・フォロー窓口として活用されています。そこでは、名物コーディネーターである川村さんが様々な情報を教えてくれるそうで、まずは、かみしほろ情報館へ問い合わせすることが大事だそうです。
それではお待ちかねの小正さんの上士幌町チェックです。
上士幌町のお試し移住体験を通して「もう少し工夫をしたら」と思った点です。
「例えば、家を安く借りられるようにするための古い住宅のリノベーション、古い公営住宅をチャレンジスペース的(カフェやお花屋さんなど)に借りられるようにすること。新規建設よりもエコなため、今よりもっと面白い人たちが移り住める可能性が高まるのではないでしょうか」(小正さん)
人口が増えた奇跡のまち「上士幌町」のさらなる発展をお祈りしつつ、プチ移住したい方はまずは「かみしほろ情報館」の川村さんを訪ねてみては……。
今回、小正さんは豊頃町と上士幌町での11か月間に渡ってプチ移住体験をしましたが、十勝は19市町村ある地域。双子ちゃんと連れて、多くの自治体を巡ってたくさんの体験や交流をしたそうです。
「十勝には都会的な派手なものはないけれど、とにかく広い大地とそこで暮らす人々の温かさ、なにをするにものんびりした雰囲気を味わえる豊かさがありました。常に時間に追われていた都会の暮らしとは全く異なる時間が流れ、住んでいるだけで、心の疲弊が回復していくのがわかりました。意外に多い様々なイベントや催し物も混雑がなく子ども連れに、とってもやさしい地域でした」(小正さん)
何より、困ったことがなくても心配して話しかけてくれる地域住民の絆には驚いたそう。都会では、話しかけるだけで不審者扱いを受けたり、嫌な顔をされることも…..。ですが、双子ちゃんを連れた小正さん一家が十勝で出会った人たちは、とにかく温かく優しい人ばかり。役場の担当部署さんや近所の方をはじめ、困った時には皆が助けてくれたそうで、極めつけは「引越し」でした。
「豊頃町から上士幌町への引越しや、大阪に帰る際の荷造りなど、多くの人が駆けつけてくれましたし、送迎会も盛大に開いていただきました。住んでもいない帯広市で出会ったひとたちも含めてです」(小正さん)
そして、人のぬくもりと同じくらい感じたのが、食料自給率1200%を誇る農業王国十勝ならではの食の豊かさでした。
「食事がとにかく美味しいんです。どこまでも続く地平線のさらに向こうにそびえる日高山脈という絵画のような景色を見ながら食べられるという贅沢さには何度も心を打ち抜かれました。豊かな自然、豊富な温泉も生活水準を高めてくれています。十勝の野菜はいきいきしていて新鮮でおいしい!美味しいご飯が安くてボリューミーなのも嬉しいですね。凛とまっすぐ天に伸びる防風林は水彩画を見ているようでしたし、きれいな水がこんこんと流れる川、どれをとっても素晴らしい環境でした。森林からこぼれる太陽の日差しがきもちい夏から、小麦畑が黄金色に染まる秋、最後は見渡す限りが真っ白になる冬。四季折々の風景・色味の変化は、人生ではじめての体験でした。夕焼けってこんなにきれいだったのかと思うほどです」(小正さん)
双子ちゃんは、十勝の地で1歳を迎え、かけがえのない時間を4人で過ごせた小正一家。2023年1月末。十勝で出会った多くの人に見送られて大阪へ戻って行きました。
これを読んだみなさん、憧れの北海道の中でもリサーチ王の小正さんが選んで「間違いない」と太鼓判を押した十勝で、お試し移住やプチ移住体験をしてみませんか。気に入ったのならば、移住して新しい十勝民として住んでみるのもいいでしょう。