十勝に移住した人を「十勝移住物語」として紹介します。2023年のパワーワード「地方移住」。U・I・Jターンなる流行り言葉をよく耳にする人も多いでしょう。今回の主人公は福岡の高校を卒業後に進学を理由に上京。2021年に都内の大学を卒業後、新卒で北海道十勝の企業に入社しました。新卒・単身Iターンをした強者・吉永桂大さんとは?入社3年の彼が描く未来とは……。
転勤族の家庭に生まれ育った吉永さんは、これまで多くの土地での生活を経験してきたそうです。
「小学校は愛知県、中学・高校は福岡県、大学進学の際に東京に出ました。偶然か必然か、小中高大のすべての学校で、入学と卒業を経験できたことはありがたかったですね。それでも、友達と別れてしまうことはとても寂しかったですよ。ただし、卒業後に新天地へという流れからか、『ヨシ!また新しい場所で頑張ろう』と切り替えはできてきました。そのせいか、少しサッパリとした性格に育ったのかもしれません」(吉永さん)
そんなサッパリ味の吉永さんの趣味は映画。大学でも映画学を選考し、毎日必ず映画を一本観るという生活を送っていたそうです。
「映画は昔から好きで、家族で買い物に出かけると誘われても、一人で家に残り、大量の映画DVDを見ることを選択してきました。高校に入る頃には映画関連の仕事に就きたいと、専門学部・学科のある大学へと進学しました。音が全くないサイレント映画から、迫力のアクション映画、B級サメ映画まで、映画であればあらゆるジャンルを観てきましたね。中でも、一番好きな映画が王道のジェームズ・キャメロン監督作の『アバター』です」
本来であれば、映画関連企業に就職するはずだった吉永さんですが、ご覧の通り、現在位は北海道十勝の牧場運営会社に勤めています。吉永さんに一体、何があったのでしょうか。
「前述した通り、大学生活は映画漬けでした。ただ、それも一年生の頃までの話でした。大学2年に上がる頃には、アトピー性皮膚炎が悪化し、3年生が終わるころまで、ずっと自宅で寝込んでいたんです。皮膚がただれて、座るのも寝るのも億劫な時期でした。生活は必要最低限のことしかできず、学校に行っては帰るだけの日々を送っていましたね。映画を観ることに関しては、寝込んでいても自分が唯一できることだったので、少しでも知識だけは吸収しようと、観てはいましたが、映画を仕事に繋げるということまで考えられない状態でした」(吉永さん)
アトピー性皮膚炎で苦しむ吉永さんですが、薬による治療と同時にはじめた健康的な食生活と運動を続けるうちに生活リズムや体の内側の変化に気づきます。
「アトピーを治すためには薬も必要ですが、大事なのは健康的な食事と運動、そしてなるべくストレスを溜めない生活をすることでした。生活改善をした結果、アトピーが治っていきました。この実体験から『厳しいであろう社会人生活を東京では無理だろう』と東京での暮らしを諦めざるを得ないと判断したんです。とはいえ、いま振り返ると単純に心機一転したかったのかもしれません。辛い東京生活を捨てて、新天地でやり直そうだったのでしょう。そして、新天地としてふさわしいと考えたのがストレスフリーなイメージの強い北海道です。それと、適度な運動ができる仕事がいいなと農業を選び、十勝へのIターン移住を決断しました」
福岡から真逆の北海道へ。入社した会社は、北海道十勝を中心に大規模な牛牧場を経営する「株式会社ノベルズ」でした。配属は当然ながら牧場です。早寝早起きの規則正しい生活と適度な運動となる労働は、吉永さんにマッチしていたそう。
当時について聞くと、「僕としては、この選択は正解だったと思います。もともと農作業をするボランティア活動や地域復興の活動も大学でやっていたので、どんな辛さや、やりがいがあるかをなんとなくわかっていましたし、自分が頭より体を動かすことが好きということも知っていたので、牧場現場の仕事は楽しく、毎日が充実でした。毎日牛と接することで、だんだんと牛の方も僕のことも知ってくれているような感覚もあって、可愛くて仕方なかったですね」と嬉しそうに話します。
都会暮らしが長かった吉永さん。都市部から離れた地域での生活に不便はなかったのでしょうか。
「メリット・デメリットで言えば、どちらもそれなりにあるような感じですね。メリットは『とにかくご飯が美味しいこと』。何を食べても美味しいという感覚は生まれてはじめてです。十勝地域が農業大国であることは、事前に調べて知ってはいましたが、入る店すべての料理のクオリティが高いんです。都内のチェーン店やトレンド店とは違い、素材そのものの美味しさが味わえると言いますか、単純な料理であっても『美味いなあ』としみじみ感じるんですよ」
吉永さんが言う通り、十勝は食の宝庫で食料自給率は1200%超えです。生産量・質ともに高く、高級料理店で使用される食材であっても十勝では家庭の食材として使われるほど。では、デメリットについてはどうでしょうか。
「デメリットといえば、文化的な交流が少ないことでしょうか。僕は生粋の映画好きだと自負しているので、帯広に映画館が一つしかないことが、どうしても物足りなさを感じてしまいます。あとは、本屋さんが少なかったり、美術館も少ないですね。札幌が最近映画祭を開催して芸術に力を入れている分、どうしても見劣りする面というか、もっと文化的なイベントが増えると嬉しいなと感じることはあります」(吉永さん)
文化的な楽しみを得られない分、吉永さんがハマっているのはアウトドアスポーツでした。手付かずの自然が残る十勝では、本格的なキャンプからグランピング、温泉・スパ、釣り、登山、ロードバイクなどなど、アウトドアスポーツのメッカ。もちろん、冬になれば、ワカサギ釣り、スキー・スノーボード、スケートなどウインタースポーツもいっぱいです。最近では、「サ国」と称し、サウナにも力を入れているそう。
吉永さんも「銭湯がすべて温泉なので、仕事や運動の後は温泉に浸かり、サウナが日課になっています」とすっかりハマっているご様子。
新天地で迎える3年目の春を前に、これからの展望について聞きました。
「大学時代に苦しんだアトピーも、自分でセルフケアできるようになってきました。仕事も慣れ、これからの岐路を考える余裕も出てきました。人生は一度きりです。しっかりと目標を定めていきたいとも考えています。今の会社でさらに成長するという選択肢もあるでしょうが、やりたい事は山ほどあって、海外と日本をつなげる仕事をしたいとも思っています。コロナも落ち着きを見せ始めて、インバウンドが見込めるようになってきたのもあるし、少子高齢化の日本を救う海外人材の招聘なんかも面白そうだと感じています。これらは今の仕事をしている中で見つけたものでもあり、その将来性にもワクワクしています。そうです。入社したノベルズであれば、前述したことが実現できる環境なのが将来を明るくさせてくれんです」(吉永さん)
インタビュー中、新たな新天地を見据えているのかなと思いましたが、吉永さんの腰は座っていました。今いる場所でも自分がやりたいと願うことが実現できるという未来予想図が描けたからでしょう。
社会人3年目を迎える吉永さん。現在の立ち位置については「社会人になって思ったのは、自分と感覚が近い人々と仕事をすることと、自分を成長させてくれる環境下に身を置くことが一番大事だと気づきました。それが十勝であれば住み続けることに繋がると思っていますし、そうでなければ、また違う場所へ行くだけです」とまるで風まかせのよう。冒頭のサッパリ吉永さんは今でも健在でした。それでも、十勝の生活が過去の苦しみから彼を解き放ち、生活と体を整え、背中を押す存在になっていることは間違いないようです。
すっかり、学生から社会人となった吉永さんですが、新卒で縁もゆかりもない地方に、しかも単身で来たことの寂しさはなかったのでしょうか。
「ありましたよ。当たり前なんですが、家族や友人のいない場所に行くことは自分が辛い時に共感できる相手や心配してくれる人たちがいないという現実があります。ただし、現在のノベルズでは全国の学生を一括で新卒採用しているので、私には約30人の同期がいることが強みにもなり、同時に単身Iターンへの不安を払拭してくれました。実際、同期との食事やスキーなどで多くのストレスを解消できていますよ」
一方で、新卒で地方に行くことの良さは、人生観が広がることだと吉永さんは語ります。同じ日本でも吉永さんが多感な時期を過ごした福岡と北海道では、歴史も文化も異なり、当然、住んでいる人の性格も異なると言います。
互いの違いについて聞くと「地元福岡県は、あっけらかんとした性格で、思ったことを何でも口にして、大声で笑い合うような土地でした。それに皆、開放的だったと思います。一方で、北海道の人は本当に寡黙です。必要最低限のことは口に出さず、エネルギーを抑えながら他者の言いたいことを頭で理解し、言葉を発さずに行動する。いわゆる空気を読むことに本当に長けていると思います。正直、私はその文化が少し苦手だったりするのですが、自分の当たり前が当たり前と思っては行けないのだなとIターンをして初めて感じたことでもありました」としっかりと分析し、理解している様子。心配は無用のようです。この気付きこそが、吉永さんの今の強さの源なのかもしれません。
最後に、もう一度、十勝へ新卒・単身Iターンしてどうだったかをぶつけてみると「前述しましたが、十勝への移住は僕にとって正解でした。身体も落ち着いて、生活も充実しています。ただ、このままの生活を続けることに、何か物足りなさを感じているのは事実です。人生は一度切り、今が人生で一番若い時なので、後悔しないように前向きに進んでいきたいですね」と飽くなき挑戦への決意で締めくってくれました。
新卒・単身で十勝へIターンした吉永さんの人生というストーリーは始まったばかり。これから長い人生を歩む中で、どんな道を進むのでしょうか。数年後、またインタビューできた際に、そこが十勝であることを祈りつつ、彼の選んだ道を応援して行きたいと思います。
転勤族の家庭に生まれる。愛知県・福岡県・東京都での学生時代を経て、新卒で単身北海道へ。牛好きが集まる会社「株式会社ノベルズ」で採用担当(入社初年度は牧場現場を経験)。採用オウンドメディア「NOBELS WAVE(ノベルズウェーヴ)」と公式Twitterを運用している。たまの休みは十勝グルメに舌鼓み。映画が大好きで、十勝に映画館が一つしかないことが不満。採用オウンドメディア「NOBELS WAVE(ノベルズウェーヴ)」を運営