東京ドームのグラウンド25個分の広大なグランピング施設や創業100年近い地元の老舗ホテルを事業承継、ふるさと納税型クラウドファンディングでは日本記録にあたる5,400万円達成の後その翌年には倍額にあたる1億円を達成のほか、道東唯一の百貨店であった藤丸の再建にも名を連ねる等、等、数々の壮大なプロジェクトを手がける「株式会社そら」。この若きベンチャー企業は、起業からわずか3年でどのような軌跡を辿ったのか。「なぜ十勝」を「だから十勝」に、をビジョンに掲げる、輝かしいビジネスの足跡を追ってみましょう。
北海道十勝地方。ここには、静寂とした大自然の美しさと、地域共通の暖かいコミュニティが息づいています。そんな場所で、かつて大都市東京を拠点としていた一人の男、米田健史氏が、心揺さぶられる何かを感じ、新しい風を吹き込む企業、「株式会社そら」を設立しました。一体どのような経緯で、そしてどんな志を持ったのでしょう?
米田氏は東京生まれの東京育ち。しかし、彼が北海道に魅せられるきっかけとなったのは、北海道大学に進学してからのことです。「北海道を巡るうちに、十勝の持つ独特の風土と人々に強く惹かれ、北海道、特に十勝の役に立つような仕事がしたい、と思うようになりました」と振り返ります。
そこからの道のりは、まさに冒険の連続。大学卒業後、米田氏は野村證券に入社し、9,400人もの従業員を束ねる組合の執行委員長を歴任。その後、大学時代から恋焦がれていた十勝に転勤希望を出す。希望どおりの帯広営業所へ異動後、証券営業のみならず、十勝全体を盛り上げるプロジェクトも企画・推進。そのまま「十勝での起業」という大きな決断を下し、彼は野村證券を退職しました。
そして、北大法学部での出会いであった林佑太氏、そして米田の野村證券時代の同僚であった水野彰吾氏。この3人が結集し、2020年4月、新たな地域創生ベンチャーとして「株式会社そら」が誕生したのです。
米田氏・水野氏は野村證券、林佑太氏は日本生命という3人とも金融機関の出身でした。
当初のコンセプトは、3人の強みである金融の知識とノウハウを十勝に根付かせること。特に金融教育の面で新しい風を吹き込もうと、情熱を燃やしていました。
しかし、彼らが会社を立ち上げる時期は、世界を震撼させたコロナウイルスの感染拡大期と重なります。「観光業や飲食業が打撃を受け、人々が困っている。我々ができることは何か?」と、事業の方向性を転換し、地域に根ざした新たな挑戦を開始するのでした。
"どこまでも広がる緑の大地、一面の穏やかな風景が心を和ませる、十勝。ここに、東京ドームのグラウンド25個分もの広大な敷地を持つ、グランピングリゾート「フェーリエンドルフ」があります。今でこそ「株式会社そら」が運営していますが、なぜ運営会社と統合し、新たな旅の楽園が誕生したのでしょう。
語るのは、現株式会社そらの西麻衣子氏。西氏は「株式会社そら起業の新聞記事を見てTwitter経由で米田さんに連絡したことから、急転展開し、統合の話が進みました。コロナで打撃を受け、将来が見通せないなか、光が見えた瞬間でした」と振り返ります。
もともと東京・赤坂の「燻」のオーナーシェフと一緒に、十勝に冷燻工房を作ろうと決めていた米田氏。土地探しの途中で「フェーリエンドルフ」の存在を知り、コロナ禍で厳しい時期を乗り越えようとするその運営会社の経営に参画することとなります。
そして、ここにきて実現した株式会社そらと「フェーリエンドルフ」との統合。
その背景には、地域を支え、地域とともにあるビジネスの形を追い求める米田氏の強いビジョンがありました。豊かな大自然と、地元ならではのユニークな観光体験を提供する「フェーリエンドルフ」は、米田氏の理念とも深く共鳴し、無限の可能性を秘めた新プロジェクトとして、現在も進化し続けています。
現在、「フェーリエンドルフ」の敷地内には、約60戸の宿泊施設のほか中札内村主体で実施したガバメントクラウドファンディングの資金によって建設された「冷燻工房」や「十勝エアポートスパ そら」等も整備されており、十勝の大自然を存分に楽しみながら、ここでしか味わえない非日常を提供しています。
両社の統合は、十勝地方の新たな魅力として、これから多くの旅行者に愛されることでしょう。グランピングリゾート「フェーリエンドルフ」には、これからも目が離せません。
2022年3月、帯広の歴史と地域社会に深く根差した「ふく井ホテル」が、新しい章を迎えました。それは、事業継承という形でありながらも、地元の心温まる協力と叡智が交錯した、次世代へとつながる物語の始まりです。
フェーリエンドルフ内で新しいスパ施設を建設しようとした「そら」。中札内村の岩盤が強固で、温泉を掘るのが難しいことから、十勝管内のどこから温泉を運ぶか、候補地を探していました。
そのような中で、ふく井ホテルの山田勝三社長(当時75歳)が提案する、「うちのお湯を使ってはどうか」という言葉。帯広駅前に誇りを持って立つふく井ホテルが誇る「モール温泉」は、「美肌の湯」と称されるほど、特に保湿性に優れた効能を持ち、多くの人に愛されており、その希少性や価値が認められ、「北海道遺産」にもその名を刻んでいます。
相談が進む中で明らかとなった山田氏の後継者不在。これは、新しい可能性を切り拓くべく、そらがふく井ホテルを事業継承する動機となりました。2022年3月、それまでの歴史を尊重しつつも新しい風を取り入れる、そらとふく井ホテルの新しい絆が結ばれました。
地元に愛されてきた老舗ホテルと、新しいビジョンを持つそら。両者の協力により、お互いの強みを活かしたビジネス展開が始まり、地域に新しい価値と魅力をもたらします。これは、ただの事業承継ではなく、地元企業同士の強い結束と、未来への共通の願いが結びついた物語です。
創業からの日々は、企業にとって冒険の連続です。しかし、「コントレイル」はその名が示す通り、新しい道を切り開くことに成功しています。この若き起業支援会社が、どのようにして十勝地方を元気にし、地域からの大きな期待に応えているのでしょうか。
フェーリエンドルフと統合を手がけた会社の動向に、地元が注目を寄せる中、2020年の末、歴史と伝統を持つ老舗、山本忠信商店の山本英明社長との出会いが、「コントレイル」誕生の狼煙を上げました。「十勝を元気にするために手を携えて新しいことを始めませんか」という米田氏の言葉に、ひときわ強く共感・共鳴するものがあったと言います。
2021年3月、山本氏と米田氏の想いが具現化し、「コントレイル」は誕生。地域への愛とビジネススキルを兼ね備えたベンチャー企業と、多くの経験とネットワークを有する地元企業が手を携え、ここから多くの面白い取り組みが生まれています。「十勝で起業しようとする人や十勝のベンチャー企業に対し、出資等のファイナンス支援、事業支援、ビジネス講習、人材支援などを行っています」と語る彼らの活動。地域を一層輝かせるのがコントレイルの役割です。
「コントレイル」は「とかち財団」と協力し、地域活性化ビジネス相談所「O-KISOU」を定期開催。地元で事業を展開しようとする多くの方々からの相談を受けています。その一方で、2022年7月には「UIJターン専門求人Webメディア」を立ち上げた「株式会社スマヒロ」に1号案件として出資。十勝の企業と都市圏の人材をマッチングさせる取り組みを支援し、地域経済の活性化を図っています。
これからも「コントレイル」が十勝の地でどのようなビジネスの種を蒔き、どれだけの企業や個人を支えていくのか、その軌跡に目を離せません。
どれだけのパワーが、一つの夢を現実にするのか。それは、2022年の春に始まったふるさと納税型クラウドファンディング『中札内村、村民待望の温泉・サウナ施設建築のために』が証明してくれました。
2022年12月30日、募集期間の終わりをひと日前にして、中札内村のプロジェクトは目標金額1億円を達成。これは、寄付金額100,125,500円、支援者数3,026名を数え、村の新しいシンボルともなる温泉施設「十勝エアポートスパ そら」への資金となりました。
SNSでの拡散、個人の紹介とお知らせを通して得られた数多くの支援。プロジェクトは最終的に、2022年12月31日までの期間で105,234,000円、支援者数3,263名、達成率105.2%をマークし、壮絶なクロージングとなりました。そして、十勝・中札内村が約束するのは、その支援の輪を大切にすること、そして愛される施設運営であること。
中札内村を訪れる旅人からは、度々「最高の村に温泉があれば」との声を耳にしていました。それは、自然、食、美しい景色と、訪れるすべての人を魅了する村が、さらに多くの方々に愛されるための鍵となります。これから誕生する温泉施設は、十勝帯広空港から車でわずか15分というアクセスの良さも手伝って、地元住民はもちろん、観光客にも楽しんで頂ける施設となることでしょう。
十勝の魅力をより多くの人へ
1億円を超える支援が、GTP(十勝内総生産)の拡大を通じて、十勝の更なる発展を意味します。それは、更なる多くの方が十勝の魅力を知り、訪れる一助となることでしょう。
株式会社そらは語ります。
「私たちは、この温泉施設が、地元・中札内村を更に素敵な場所にする一助となることを信じています。そして、すべての支援者の皆様に対して、深く感謝を申し上げます」
北海道資本の唯一の百貨店として、122年にわたり地域とともに歩んできた「藤丸百貨店」。2023年1月、その壮絶な歴史に一度幕を下ろしましたが、その背後では新しい希望が芽生え、再建への一歩が刻まれていました。
十勝で新しいビジネスモデルを次々と展開している株式会社そら。その活動が「地域創生の旗手」として多くのメディアに取り上げられています
2022年3月、そらがふく井ホテルの事業承継を完了した直後、切羽詰った声が彼らに届きます。「藤丸百貨店を助けてもらえないだろうか」。
一つの終焉、そして新たなスタート
7期連続赤字、郊外型SCなどの台頭、藤丸百貨店は確実に存在の危機を迎えていました。その閉店と倒産は、地域社会へ甚大な影響を及ぼす可能性がありました。
「地域の中核商業施設がなくなるだけでなく、従業員の解雇、取引先の連鎖倒産、建物が廃墟になるなど、地域へのダメージは計り知れません」と語る地元関係者。
2022年12月、そらは帯広日産自動車の持株会社、村松ホールディングスと共に新会社を設立。再建計画とその後の事業運営を担う道を選んだのです。
倒産という最悪のシナリオを回避し、私的整理の後、再建への道を選ぶことができた藤丸百貨店。2023年1月の閉店、退職金の確保のための閉店セール実施、そして再オープンの計画発表。当初は7、8年後の再オープンを考えていましたが、地域住民からの声を踏まえ、2025年秋の改装オープンを目指すことに。
この再建ストーリーは、単なるビジネスの救済を超え、地域への深い愛情と絆、そして未来への投資として語り継がれるでしょう。
株式会社そらは、地域が抱える課題に対し、可能性と希望のシンボルとなりつつあります。藤丸百貨店の新たな歴史の一ページは、そらとともに、地域とともに紡がれていくことでしょう。
2023年7月、上場企業「オープンハウスグループ」と、多岐にわたる地域事業を展開してきた株式会社そら。このふたつの企業が手を取り合い、地域共創事業を担う新会社「かぜ」を設立することが発表されました。
地域再生と経済活性化に焦点を当てたこの新プロジェクトには、どんな未来が待っているのでしょう。
この協業のきっかけとなったのは、オープンハウスグループの荒井正昭社長による2,000万円の寄付でした。そうです。前述した1億円達成のふるさと納税型クラウドファンディングです。
新会社「かぜ」は、オープンハウスグループが寄付として提供いただく予定の10億円を財源のひとつに、地域共創事業を展開。米田氏は「両社の持つ不動産と金融のノウハウを生かして、地域の発展に貢献していきたい」と語ります。具体的なプロジェクトや施策は今後の発表を待つところですが、地域の実情を把握し、そのニーズに応じた事業展開が期待されます。
「座していれば日本は衰退し、しかも地方から真っ先に衰退していく」と語る米田氏。しかしそれを受け入れるつもりはありません。そらとかぜが、どのように地方、特に十勝を基点に北海道全体を活性化させていくのか。これからの挑戦が注目されます。
未来を拓くビジョンとして、オープンハウスとそらの連携は、新しい地域創生のモデルケースとして全国に示す可能性を秘めています。
この新しい「かぜ」が、地域社会にどんな変化と成長をもたらすのか。2つの企業の今後のステップに、十勝だけではなく、全国が大きな期待を寄せていることでしょう。