北海道十勝の士幌町。のどかな農地が広がる場所に佐倉カフェがあります。運営するのは、山岸牧場です。牧場直営のカフェと聞くと牛乳やソフトクリームを想像する方も多いかもしれません。ですが、佐倉カフェの魅力は、それ以上に「思わず深呼吸してしまうような空間」と「家庭料理の温かさ」にあります。
外観を彩る紺色と鮮やかなグリーン。このグリーンは山岸牧場の生乳で作ったヨーグルトのイメージカラーでもあります。
店内に足を踏み入れると、高い天井と大きな窓が印象的な明るい空間が広がります。「人が自然と集まる、居心地の良い空間を作りたかったんです」と娘の北出愛さんは言います。
白い壁に温もりを感じる木製家具、アクセントカラーの紺色とグリーンが効き、温かくも爽やかな雰囲気の店内。目を引くのは大きな窓を望むカウンター席です。ガラスの向こうには開拓時から変わらない原生林が広がっています。
カウンター席の反対側にはボックス型のソファ席が三つ。席の間には壁を設け、窓もあえて視線より高い位置に設置することで、親しい人とゆっくり食事やおしゃべりを楽しめるように「おこもり感」を大切にしているからです。
店内奥には二人が座れるテーブル席があり、窓からはカフェのとなりに広がるとうきび畑を望めます。
家具にもこだわり、椅子やソファは長時間座っても疲れにくいものを厳選しました。「こんな家に住みたい」「色づかいが素敵」との声も多く、建築会社を尋ねるお客様がいるほどです。
肩の力が抜けるような気持ちの良い空間でいただけるのが「佐倉cafeのお昼ごはん」。
大きなプレートに盛り付けられた色とりどりの季節のお惣菜に、野菜のサラダ、ごはん、味噌汁、デザート、飲み物がセットになったメニューです。
メインのお惣菜は日替わりで10品前後。その時期に旬の食材を中心に、愛さんの母、厚子さんがメニューを考えているそう。
春は厚子さんのご主人が採る山菜、夏は自家菜園のとうきびやトマト、デザートに自家栽培のスイカやメロンが添えられることも。他にも地元農家から仕入れる熟成じゃがいもや、農協婦人部のつながりで届く熊本産トマト、親戚が育てる長芋なども登場します。厚子さんが築いてきた地域ネットワークと家族の協力で作られるお料理の数々です。
味付けも和風、洋風、中華風と幅広く、この日はキャベツの入ったメンチカツ、鶏肉と野菜の甘酢餡、豚肉ときゅうりの巻物など。ごはんが進むおかずからあっさりした一品まで揃い、どれも手作りのほっとする味わいで食べ疲れしません。
米や肉も道産や国産を使用。デザートには牧場のノンホモ牛乳で作ったヨーグルトや、そのヨーグルトを使ったチーズケーキ、季節のフルーツや自家製ジャムが添えられます。ジャムは単品でも販売しており、なかでもリンゴジャムは熱心なファンがいて、毎年楽しみにしているお客様のために作り続けているそう。
デザートのヨーグルトも格別です。脂肪分を分解していない、生クリーム層のある牛乳を使うため、濃厚でクリーミー。でも、くどさはありません。愛さんは「おいしい牛乳づくりの基本は清潔な環境、おいしい水、おいしい餌です。ただし、牛を育てる『人』が整っていなければ成り立ちません」と語ります。
そのため山岸牧場では、月1回の社労士による面談や、業務基準を写真で明確化する工夫など、牛を育てる人々の労働環境づくりに力を注いでいます。その結果、乳質は常にトップクラスです。
山岸牧場がカフェを開いたきっかけは、厚子さんが40代の頃から温めてきた夢。厚子さんは長年暮らしてきたこの土地が大好きで、「ここに人が集まる場所をつくりたい」という思いを抱いていました。
「小さい頃から『ここから見える夕陽がきれいでしょう』『山の眺めがいいでしょう』と母に聞かされて育ちました」と、愛さんは語ります。
厚子さんは料理研究にも熱心で、テレビや雑誌、レシピ本から情報を収集しては、新しいレシピを試作しています。地元の主婦仲間と組んだ料理チーム「世話焼きたまご」が料理コンテストで優勝し、考案したレシピが横浜の有名ホテルのメニューに採用されたこともありました。
自身が生きるこの土地への愛情と料理への情熱が原動力となり、2018年、念願のカフェが実現しました。
佐倉カフェにはリピーターも多く、十勝のおいしいごはんを食べられる場所として地元の方が親戚や友人を連れて訪れることもあるそうです。転勤で一度は遠方に移ったお客様が帰任し、「また来れるようになって良かった!」と言ってくださったことも。まさに「帰ってきたくなる場所」として、地域や人をつなぎ続けています。
カフェの2階には20人が一緒に食事をできるスペースもあります。プロジェクタも完備しており、団体向けに研修とランチをあわせて提供できるプランも検討中です。「牧場を見学してから、カフェで食事を」―そんな体験ができる日も近いかもしれません。