「酪農業界を変えたいというより、他業種で働く人たちに向けて、入口を広げたいんです」
そう語るのは、北海道・清水町を拠点に酪農ヘルパー事業を展開する株式会社ラクネス(以下、ラクネス)の代表取締役・塚本啓太さんです。人手不足が深刻化する酪農の現場において、ラクネスは「未経験者が無理なく酪農に関われる仕組みづくり」に力を注いできました。
なぜすでに知識や経験のある人ではなく、あえて未経験者を酪農の現場へと迎え入れるのか。本記事では、塚本さんへのインタビューを通じて、未経験者が酪農業界に必要とされる理由や、ラクネスで酪農ヘルパーとしてキャリアを積む強みについてひもといていきます。

酪農ヘルパーとは、搾乳やえさやり、牛舎の管理などを、主に乳牛を育てる酪農家に代わって担う専門職です。乳牛の飼育では、毎日朝夕2回の搾乳が欠かせません。そのため酪農は、一年を通して休みを取りづらい仕事とされてきました。
酪農ヘルパーは、そうした現場に入り、作業を代行することで、酪農家が安心して休暇を取りながら、無理のない形で経営を続けられる環境を支えています。
塚本さんが経営するラクネスの特徴は、特定の農家と固定契約を結ぶのではなく、「毎月予約制」を採用している点にあります。現在は予約が集中する日も増え、人手が追いつかず、抽選が必要になるケースも出てきました。

塚本さん自身も「経営者として動きながら、ほぼ毎日現場に出ています」と話しており、より多くの農家に支援が行き届く体制を整えるため、ラクネスでは採用活動に力を入れています。

塚本さんが初めて酪農ヘルパーとして現場に立ったのは、今から4年ほど前のことです。
「印象に残っているのは、皆さんがハードな働き方を当たり前のように続けているということでした」と振り返ります。
背景には、「親がそう働いてきたから」といった価値観が根づいており、働き方そのものを見直す発想が生まれにくい状況がありました。長年続いてきたやり方が、疑問を持たれないまま受け継がれてきた現実でもあります。
そうした環境に対し塚本さんは「自分のように外の業界から入った者が関わることで、少しずつでも考え方や働き方が変化する余地がある」と可能性を見出したといいます。
塚本さんにとって、酪農ヘルパーの仕事は単なる人手補充ではありません。
「牛を見るだけでなく、働き方そのものを見直す役割を担えるのが、酪農ヘルパーだと思っています」と明確に語ります。
固定概念を一気に壊すのではなく、現場に寄り添いながら新しい選択肢をそっと差し出していく。それが、塚本さんの考える酪農ヘルパーの在り方です。

酪農の現場で長く続いてきたハードワーク。その背景には、慢性的な人材不足があります。人が足りないから休めない。休めないから人が定着しない。そうした負の循環が、働く環境をより厳しいものにしてきました。
「業界そのものを大きく変えたいというよりは、この業界に入る人の『間口を広げたい』という思いが強いです」と、塚本さんは話します。
異なるバックグラウンドを持つ人が現場に入ることで、酪農家の価値観が少しずつほぐれ、働き方に余白が生まれていく。塚本さんが理想とするのは、こうした積み重ねの先に生まれる、酪農業界への入り口の広がりです。

ラクネスでは、酪農家を支えるだけでなく、酪農ヘルパー自身の働き方そのものの設計にも力を入れています。塚本さんが目指しているのは、「会社員的に安心して働ける環境」です。
「残業代をきちんと支払い、休みをしっかり取ってもらう」
まずは、これまで業界では当たり前になりきっていなかった労働環境の基準を整えること。その土台の上に、ラクネスならではの今の時代に合わせた働き方をミックスしています。
ラクネスでは、休みを会社が一方的に決めることはありません。翌月の希望休を全員が先に提出し、その希望をもとに酪農家からの予約を受ける仕組みです。
「休みの日数には上限がありますが、取り方は自由です。毎月4連休を入れるのでも、まったく問題ありません」と塚本さんは笑顔で話します。
働き手の生活を先に置いたうえで、仕事のスケジュールを組み立てていく。一見すると大胆な仕組みにも見えますが、そのほうが無理なく働き続けられ、結果として仕事の質も高まると塚本さんは考えています。
ラクネスでの仕事は、早朝と夕方の2回の作業を軸に進みます。朝は牛舎の清掃や搾乳、えさやりを行い、夕方も同様の作業に入ります。
朝と夕方の作業の間にあたる日中の時間については、その使い方を本人に委ねています。休憩を取ったり、家事を済ませたり、副業に取り組んだりと、過ごし方は人それぞれです。
ラクネスでは、個々が自分の力で稼ぐ力を身につけていくことを重視しています。そのため「副業OK」という位置づけではなく、「副業を前向きに捉える」スタンスを取っています。
塚本さん自身も、酪農家支援の現場に立ちながら、学習塾の運営や保険の仕事を続けてきました。チームとして支え合いながら、個人の挑戦も応援する。その考え方が、ラクネスの働き方の根底にあります。

ラクネスでは、未経験者をいきなり現場にひとりで出すことはありません。まずは研修牧場として位置づけた提携牧場で、基礎を学ぶところからスタートします。
牛舎の掃除や搾乳、えさやりといった作業だけでなく、現場での動き方や考え方まで含めて、実際の酪農家から直接教わります。その際はラクネスの先輩社員も一緒に立ち会い、常にフォローに入ります。独り立ちできると判断してから、初めて顧客の牧場へ向かう流れです。
教育体制は分担制を取っています。牛や現場に関する知識は、牧場勤務経験があり知識の豊富なスタッフが担当。社会人としてのマナーや考え方の部分は塚本さんが受け持ちます。そのため、将来ほかの業界に進む場合でも通用する、ビジネスマンとしての基礎力を身につけることができます。
ラクネスが求めているのは、最初から完璧な人ではありません。
「わからないことを聞ける、素直に吸収できる、チームの中で学ぼうとする。その姿勢があれば十分です」
未経験であることを理由に、一人で抱え込ませない。その考え方こそが、ラクネスの育成の土台になっています。

塚本さんは、ラクネスが「ずっと働き続けるための場所」である必要はないと考えています。
「自分に合う働き方を探したい」「一次産業を体験してみたい」「十勝という土地を知ってみたい」
そんな漠然とした思いを抱く人にとって、最初の一歩を踏み出す場所であってもいい。ここで働きながら自分の進む道を見つけ、次の選択へ進んでいくことも、ラクネスは歓迎しています。
酪農の仕事をやってみたい人だけでなく、将来を模索しながら働きたい人にとっても、ラクネスで経験を積むことは、有力な選択肢のひとつです。TCRUでは、株式会社ラクネスの求人情報を確認できます。以下の「応募・質問する」ボタンからお気軽にお問い合わせください。
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株式会社ラクネス代表取締役社長|1995年生まれ。大阪出身。大学卒業後、東京にて会社員として勤務。安定した環境のもとでキャリアを積む一方、自身の将来や働き方を見つめ直す中で転機を迎える。大学時代の先輩からの誘いをきっかけに北海道へ移住。未経験から酪農ヘルパーの現場に立ち、酪農家の働き方や業界構造に課題意識を持つようになる。2025年9月、前身の会社から酪農ヘルパー事業を受け継ぎ「株式会社ラクネス」を設立。