コロナ前には2400万人超の年間旅客数を擁した新千歳空港は、道内はもちろん、世界と日本を結ぶ全国屈指のメガエアポートです。そんな北海道最大の空の玄関口で働く花形職業から、創業わずか3年弱の“十勝のそら”へーーー。誰もが驚く大胆なジョブチェンジの末、入社後数カ月でそらが運営するグランピングリゾートの顔に抜擢された女性がいます。いったい何が、佐藤優里奈フロントマネージャー(FM)のハートに火を付けたのでしょうか?
2022年入社・フロントマネージャー
札幌市出身。短大卒業後、大手航空会社に就職。国際線のグランドスタッフとして新千歳空港で働く。2021年、そらが運営する宿泊施設「フェーリエンドルフ」に出向社員として配属され、フロント業務に従事。その後、勤務先の航空会社を退職しそらに入社。正式にフェーリエンドルフの一員となる。趣味は旅行。刺激を受けた旅先はニューヨークとドバイ。
澄んだ空気、青空や雪景色に映える針葉樹の森、静かに佇むドイツ様式の貸切コテージーーー。クワハウスと呼ばれる温泉保養地をモデルに、本場ドイツの建築家が設計を手掛けたという「フェーリエンドルフ」は、最寄りの空港から最短15分のいわば“1泊2日で行ける秘境”です。人口4000人弱の十勝・中札内村にありながら、昨今のグランピングブームも追い風となって注目度が急上昇。ふるさと納税型クラウドファンディングで目標の1億円を達成し、敷地内に温浴施設「十勝エアポートスパそら」を新設するなど、十勝で最もホットな新名所として人気を博しています。
「グランピングで泊まる宿というと、キャンプの延長線のような感覚で簡素なテントや山小屋風のロッジを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。 “アウトドア大国”として知られる北海道ではここ数年で一気にこうしたグランピング施設が急増。自然との触れ合いはもちろん、食やアクティビティなど個性を打ち出した施設が林立し、今や激戦区とさえ呼ばれています。
一方、『中札内農村休暇村フェーリエンドルフ』として1993年から営業を続けてきた当施設は、いわば道内のグランピングの先駆け的存在です。ドイツの休暇村をテーマに、地元の森林景観に寄り添う施設づくりに邁進してきました。2021年には全面的なリニューアルを図り、すべてのコテージを高級感のあるホテルクオリティに格上げ。コロナ禍の癒しとなる『滞在型グランピングリゾート』に生まれ変わり、道内外からわざわざ足を運んでいただいています」(佐藤さん)
こう佐藤FMが語る通り、フェーリエンドルフでは2021年に再整備を行い、既存の44棟の宿泊棟を“ラグジュアリーなグレード”へ刷新。さらに。中世ヨーロッパのロココ調をイメージした「プリンセススイート」、専用サウナ・温泉付きの「プレジデンシャルスイート」といったVIP棟を新設。コロナ禍の高級需要を満たし、その付加価値によって差別化を図る路線転換に打って出ました。そんな新軌道上にある施設を支え、現場を統括するのが佐藤FMの役割です。
「じつは、フロントマネージャーの守備範囲は広いんです。お客様の予約管理やチェックインなど接客を行う部署であることは想像がつくかと思いますが、ほかにもクレーム対応、シフトやスタッフの管理、人材育成などのバックヤード業務も行っています。忙しいほうがやりがいを感じるタイプなので苦ではありませんが、現場ではイレギュラーな事態が起こることもありますし、本当に目が回りそうな日も(笑)。接客面はもちろん、スタッフ間の信頼関係も円滑な業務には欠かせませんから、コミュニケーションに重きを置きチームの輪を大切にしています」
そらに入社後わずか数カ月でフロント業務のリーダーに抜擢されるとは、業界経験者かと思いきや、佐藤FMの前職は航空業界。しかも、狭き門をくぐり抜け国内最大手の航空会社の一員となり、新千歳空港の国際線ターミナルで誰もが憧れるグランドスタッフとして働いていたのだそう。不躾だとは思いつつも、「その転職、もったいなくないですか?」と尋ねてみると……。
「よく言われますよ(笑)。友人や同僚たちにも『本当にいいの? 後悔するんじゃない!?』なんて言われたり。私自身も、前職を辞めるときには本当にいろいろと悩みました。私は札幌出身で、地元の短大を卒業後、旅行に関わる仕事がしたくて航空会社に就職しました。もともと両親が旅行好きで、子どもの頃からいろんな所に連れて行ってもらっていたんです。北海道はご存じの通り大きいですから当然、飛行機に乗る機会もあって。高校生で海外デビューをしてからは、ますます飛行機が好きになりました。それで就職活動をするなかで、好きなことに関われる仕事に就こうと決めました」(佐藤さん)
こうして念願の航空会社に就職し、佐藤FMにとっては勝手知ったる地元・新千歳空港に配属。国際線のグランドスタッフとして忙しい毎日を送り、業務にも慣れて順風満帆に思えた矢先、全世界を揺るがせたあのパンデミックに直面します。
「新型コロナウイルスの流行が世界的に加速し、国際線の飛行機が飛ばなくなってしまったんです。そうすると当然ながら地上の業務も減り、所属していた部署が解体に追い込まれました。私は運航管理補助などを行う別の部署に移動しましたが、同じ空港内とはいえ、接客とは無縁のバックオフィス業務に物足りなさを感じるように……。そんな頃、社内で『フェーリエンドルフ』への出向を募っていると聞きました。未経験の業種ですが、これまでグランドスタッフとして培ってきた接客やスキルを活かせるかもしれないと考え思いきって手を挙げたんです」
2021年当時、コロナ禍の影響で業務が激減してしまった客室乗務員や地上のスタッフたちは“コロナ出向”として民間企業へ派遣され、その多くが本来の“空の仕事”を離れることに……。佐藤FMが勤めていた航空会社からフェーリエンドルフへは、3名が派遣されたといいます。
予期せぬきっかけで、20代半ばにして人生のターニングポイントを迎えた佐藤FM。同じ道内で期限付きとはいえ、札幌から遠く離れた十勝へ移り住むことに抵抗や不安はなかったのでしょうか?
「十勝には旅行で来たことがある程度で、赴任するまではたいしてイメージもありませんでした。正直なところ、当初はあまり魅力も感じず、なぜ弊社の代表が十勝を選んで創業したのか不思議に思ったくらいです(笑)。ところが『フェーリエンドルフ』の一員として働きはじめて、感覚的に十勝のヒトと自然の温かさに惹かれました。大自然のおかげか、おおらかな人柄の方が多いのかも。言葉ではうまく表現できないので、『とにかく一度来てみて!』と友人たちにも伝えています。
当時はグランピングリゾートとして再出発して間もない頃でしたから、手探りで運用している部分も多く、現場レベルでもスタッフ同士で意見を出し合うシーンがいくつもありました。みんな発想が豊かで、行動力や責任感があり、とても尊敬できる仲間ばかり。フロント業務を通じて、大企業では絶対にできない新鮮な経験をさせてもらい、毎日が刺激の連続でした」(佐藤さん)
さらに、十勝の自然の魅力についてと質問してみるとこんな回答が。
「生活面を考えて、現在は帯広市に住まいを借りて中札内村まで通勤しています。帯広の中心部はほどよい都会なので不便はありません。市街地から『フェーリエンドルフ』までは車で片道40分ほどですが、右手に“北海道の背骨”と呼ばれる日高山脈の大パノラマが広がり、絵ハガキみたいにきれいな田園風景のなか車を走らせるんですよ。空港勤務の頃には気づかなかった季節の移ろいや“十勝晴れ”な青空を見ていると、出勤途中なのに思わず癒されてしまいますね」
出向社員としての約1年の任期を終え、十勝・フェーリエンドルフから再び札幌・新千歳空港へ。復職を果たすも、一度芽生えた十勝愛が消えず、心のなかには常に葛藤があったのだとか。
「新卒で大企業に就職したので、それまでベンチャー企業のような働き方をイメージしたこともありませんでした。ところがフェーリエンドルフでの就業を通じて、一度違う世界を知ってしまったのでもう、『十勝で、みんなと一緒に働きたい』という想いを抑えきれなくなって……。さんざん悩みましたが、一時的な感情ではないと確信して復職後まもなく勤務先を退職。今度は移住者として、半年後に十勝へ戻りました」(佐藤さん)
一大決心をして十勝へと移住。転職先の職場では出向社員の待遇から直接雇用の社員となり、働き方や環境にギャップはなかったのでしょうか?
「組織自体がハイペースで拡大しているので、正式にフェーリエンドルフの一員になったときにはやはり状況の変化を感じました。あと出向社員の頃には客人待遇といいますか、多少なりとも気を遣ってくれていたのだなとも(笑)。ただ、働きやすい環境という部分は根本的に変わりませんし、社歴に関わらず大役を任せてくれ、貴重な経験ができることは本当にありがたいと思っています。
どんどん組織が大きくなるにつれ、入社当初は想像もしなかった戸惑いを感じることもありますが、それも会社と私自身の成長期だからこそ。人生にはこういう経験も必要だという風にドンと構え、へこたれない気持ちで十勝でのセカンドキャリアづくりを楽しんでいます」(佐藤さん)
ちなみに現在、佐藤さんが働く「フェーリエンドルフ」ではフロントスタッフを募集中とのこと。気になる方は求人情報をチェックしてください。
佐藤さんが働いている株式会社そらは以下から