自分の町を好きだと思う人を増やしたい。

Sep. 12
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今回は、HOSPOを運営するSPACECOTANのメンバーをご紹介いたします!紹介するのは、SPACECOTAN株式会社でCMOを務める中神美佳。メンバーの中で唯一の大樹町出身である彼女は、実は「2回」東京からUターンしているんです。自らのキャリアと、地元への貢献、模索しながらたどり着いた答えとは…?

中神美佳 SPACE COTAN株式会社 CMO

1986年北海道大樹町生まれ。2009年に日産自動車株式会社に入社、GlobalMarketIntelligence部門にて世界10カ国以上の市場調査・分析を実施。コンパクトカーや電気自動車等の商品企画やコミュニケーション戦略立案を推進。その後大樹町地域おこし協力隊として、ふるさと納税の改善や観光、移住事業等を実施する傍ら、同町にて起業。2018年から株式会社スマイルズ クリエイティブ本部にて、広報、ビジネスプロデューサーとして自社事業からクライアントワークまでを担当し、2019年にはスマイルズ北海道支社を立ち上げ。2020年から北海道航空宇宙企画株式会社にジョインし、北海道スペースポートの立ち上げに参画。2021年から現職。

SPACE COTANではCMOですが、新卒で入社した日産自動車でもマーケティングを担当されていたようですね。

2009年に日産自動車株式会社に入社して、Global Market Intelligence部門に配属され、6年間担当していました。日産のマーケティングが大事にしていた価値観は「お客様の代弁者になる」ということ。お客様のニーズを商品やプロモーションに反映すべく、商品開発部や宣伝部など、社内様々な部署に対して、リサーチ・分析・提案をしていました。開発前にはどんなニーズがあるのか、お客様の価値観はどんなものなのかターゲティングからコンセプトメイキングまでを調査したり、発売後の商品に対しても、売れている/売れていない理由、どこに課題があるのか、といったことを分析したり。「お客様の代弁者になる」けれども、調査は仮説(主観)がないと成り立たないので、そのバランスが難しくも面白い部分でした。  

やりがいのある仕事のように思うのですが、大樹町にUターンしたきっかけは何だったんですか?

ずっと変わらずにあるのは、地域に興味があるんです。ローカルとか、地方という言い方もしますけど。ローカルって、課題もたくさんありますが発掘されていない魅力も負けないほどあるんですよね。 私は大樹町出身なのですが、元々田舎生まれというのがコンプレックスだったんですよ。「なんでこんな田舎に生まれたんだろう」と思ってました。同級生が2〜3人しかいないとか、そういうことは恥ずかしくて隠してきたんですが、大学生になって就職活動していた時に、田舎ネタがすごくウケたんです。その時です。「あれ?ローカルって個性なの?」と思ったんですよね。そこからローカルって悪くないなって思い始めたんです。地元・大樹町への向き合い方を見直していくと、地元を元気にするというのが自分の使命のようだとも思えてきたんです。そこで、Uターンで地域おこし協力隊になったんですよね。  

大企業で経験してきた一流のことを、町に活かせそうですね。

それがそうでもないんです。それまで調査・分析・提案まではしていましたが、自分の手足を使って「実行する」という経験がなかったので、地域おこし協力隊としてUターンした直後は、かなりギャップがありました。最初の3ヶ月くらいはずっとパワーポイントで資料を作ってたんですよ!大樹町の人口減少している理由は何か…とか。頭でっかち過ぎたんです。分析ばかりしていても何も変わらない、失敗してもいいから恥ずかしいけどやってみよう、と思ったきっかけは、自分で企画した「移住者カフェ」。チラシも自力で作って、道の駅置いてもらって集客をがんばったんですが、全然人が集まらなくて。どうにかしなきゃ!と思って、夫に参加してもらったり、職場の隣にいた人を連れてきたり、なんとか人を集めて10人くらいでご飯食べたんです。そしたら参加者の方が、楽しいねと言ってくれて。それをきっかけに、「自分でやる」に挑戦し、ガムシャラな地域おこし協力隊時代を過ごしました。ふるさと納税、移住促進、空き店舗のDIYなどやりたい、やるべきと思ったことはなんでもやりましたね。ライティング実績をつくりたくて0円で町の求人記事のお手伝いをしたり!笑 野外フェスを企画運営した経験をかわれて、インターステラテクノロジズのMOMO初号機打上げの見学イベントの立ち上げも協力させてもらいました!  

その後、もう一度東京の会社で働くことを選択されてますよね。

やっぱりリソースがたくさんある中での大企業的なマーケティングしか知らなかったので、企画も実行も経験がなかったですし、地域おこし協力隊の3年間でそれを克服できたかというとそうではなくて。実行も含めたプロの企画開発の組織で働いたことがなかったので、自分のアウトプットに自身が持てなかったんです。経験していなかったことに一人で挑戦する限界を感じて、修行目的でスマイルズに行きました(笑)

スマイルズのマーケティングも面白かったんですよね。日産はn(サンプル数)=何千、何万の世界でしたが、スマイルズはn=1。つまり、より多くの人を想定するのではなく、自分自身の思いや価値観、友人、家族、恋人など周りにいる誰かのニーズ、こんなことがあったらいいな、これが不満・・・などを突き詰めて考える、という考え方なんです。確実に存在する1人の後ろには、同じような思いを持つひとが100人、1000人…いるから、そのたった一人が求めるもの、シーンをイメージするという考え方。顧客志向というより自分志向なマーケティングですね。

▲撮影:STARTUP CITY SAPPORO

なんだか日産とは正反対に近い考え方ですね!

そうそう!右脳と左脳じゃないですけど、対極にあるような考え方を学べたのがすごくありがたかったです。結局両方を行ったり来たりして考えることが必要で。インターステラテクノロジズ(以下、ISTの)や、もちろん今のSPACE COTANではリソースが限られているので、スマイルズの経験が生きています。  

▲スマイルズ時代に手がけた100本のスプーンの「コドモたちとみんなでつくる公園プロジェクト」。

宇宙に携わるきっかけは

スマイルズではとても楽しく仕事をしていたのですが、大樹町が、北海道スペースポートという構想を実現させようとしている、まさに長年の夢を形にできるかどうか…というとても大事な時期を迎えていました。地域をあげたプロジェクトだから、この土地に特別な愛着を持つ地域の人が関わった方が良いよね、という声ももらっていました。「いま、この領域に関わることが大事なんじゃないか」と、いう使命感に突き動かされ、スマイルズを退職。2020年9月から北海道航空宇宙企画株式会社(HAP)に関わり、2021年4月からSPACE COTANでCMOに就任しました。

ずっと、仕事のやりがいや自分の成長できる環境と、地元である大樹町への貢献のバランスを模索していたんですよね。でも、ようやく見つけたんです。これが良いと思いました。SPACE COTANでは、やりがいのある良いチームができて、いろんなプロの方と切磋琢磨できて、話せる自分の引き出しも増えました。この数年で身についている気がします。  

SPACECOTANでは何を担当しているのか

HOSPOは今年の4月にできたばかりなので、認知度と理解を進めるための活動のウェイトが大きいです。ロケットは宇宙に行くものだと皆さん知ってますが、そもそもその打ち上げる場所が射場で、射場がないとロケットって打上げられないんですよ。さらには射場だけでなく宇宙旅行ができる宇宙船なども離着陸する滑走路なども整備した複合施設「スペースポート」として民間に開かれたものにして、その意義は…まで分かっている方のほうが少ないですから。

馴染みなしを馴染みアリにするために、視覚的に理解してもらえるようなHOSPOの未来ビジュアルを作成しました。ロケットを打ち上げている様子、見学スペースがあり、工場があり、町が発展している様子です。もはや100mくらいのタワーまであって町ではなくて市になりそうです。笑 これがあればHOSPOが何をやりたいのか分かってもらえますし、観光や教育、雇用創出などあらゆる産業とコラボレーションして町や地域全体が盛り上がるんだということも伝わりますよね。

会社のロゴにもこだわりがあります。緑から青に変わっていますよね。この緑は北海道の豊かな自然を表しています。大樹町のグリーンから宇宙のブルーへ。宇宙系の企業って、黒や白、青などを使っていることが多いですが、北海道という土地のアイデンティティを表現したくてこの見た目にしています。

動画やビジョンブックなど、私たちが皆さんと一緒につくりたい未来のイメージを共有するためのクリエイティブも使うシーンにあわせて作っています。

あとはなんといっても大樹町に来て肌で感じてもらうことが一番の理解につながるのでISTと一緒に北海道スペースポート体感ツアーを企画したり、個別でアテンドもしています。大樹町の滑走路やロケット射場を見てもらうと「こんなに進んでいるのか!」「これほどまでに熱量のある人達がここまで本気でやっているのか!」という驚きがあり、このプロジェクトのリアリティを感じてもらえます。絶対に関わりたくなると思います。

ほかにも、11月4〜5日に開催する「北海道宇宙サミット2021」の企画も担当しています。1日目はHOSPO体感オンラインツアー、2日目は多くの登壇者を招いてのカンファレンスです。スペースポートのオンラインツアーはコロナ禍での新たな観光コンテンツになればとも思っています。北海道って宇宙で盛り上がっているな、という気流を作っています。

すでに出来上がっている市場に対して車のマーケティングをしていたときと、何がどう違う?

宇宙は市場がこれから成長していく業界ですよね。例えばブロックチェーンのときのように、多くの人が「何だこれは?どう使うんだ?」となった状態に近いと思うんです。つまり、宇宙に対して憧れや興味があっても、それが自分の仕事になったり仕事として関わる分野とまで結びついていない状態だと思うんです。

そのため、スペースポートの必要性を説明するときも、スペースポートからロケットやスペースプレーンが打ち上がって、みなさんの暮らしがどう変わるのか?どの業界のどんな課題を解決するのか?を説明します。砂漠や海の上など地球上どこでも通信ができるとか、人手不足で困っている一次産業も宇宙から畑や海を見ることで効率化できるとか、港や工場からの車の出荷数をみて金融市場を予測するとか。このような翻訳は、日産のマーケティングをやっていたときと大きく違う部分だと思ですね。車の場合はすでに普及していますし、車がどんな風に生活に寄与するかは分かりきったことですよね。

あとは、とにかく「事例をつくる」ことですね。例えば、北海道スペースポートの見学ツアーを学校の社会科見学や修学旅行などの教育旅行コンテンツにできないかと思っています。それも、実際にロケット射場ツアーなどをトライアルで小さくはじめていくことで「スペースポートが観光資源になる」ことが伝わって事業化のタネになります。実行によって次の思考を生んだり事業の可能性を広げていきたいです。  

▲撮影:STARTUP CITY SAPPORO

宇宙に関わる人達って、みんな熱量があって、ポジティブなんです。もちろん町の人も注目していて、例えば打ち上げ期間になると町中に打ち上げを応援するのぼりが立つんですよ。みんなで宇宙の町を作っているのが伝わると思います。面白いですよ!

地元でもある、どんな町にしていきたいのか、そこにどう貢献していきたいのか

私が中学生の時までは、「都会ではできるのに、大樹は田舎だからできないんだ」と思うことがたくさんあって。小さいことですけど、例えば私はバスケ部に入りたかったのに、バスケ部がなかったんです。でも今は、大樹町にものすごく可能性を感じています。地域おこし協力隊として戻ってきたときからずっと思っているのは「自分の町を好きだと思う人を増やしたい」ということ。HOSPOは、好きになれる町へのきっかけの一つだと思うんです。  

宇宙の町としての完成はなくて、常にどこかしらが変わったり拡張したり…例えば宿泊施設ができたり、飲食店が増えたり、ロケット打上げを見ながら浸かれるサウナや温泉ができるとか。ディズニーランドのように、ずっとずっと作られていくと思うんです。それから関わる人も宇宙産業従事者だけではなくて、HOSPOの射場で映画やミュージックビデオを撮りたいですとか、撮り鉄のように宇宙ロケット系のカメラ好きの聖地になるとか。いろんな関わり方が生まれて来るはずです。これからどんどん色んな人が関わってくれているので、より一層住みやすい、おもしろい町になっていくと思いますし、子どもたちにも「大樹って面白い!地元で働きたい」と思ってもらえると嬉しいです。  

きっと、魚を食べなら海の上でロケットを見るとか、高校生がHOSPOのガイドになるとか、今までにはなかった新しいシーンがたくさん生まれると思います!

▲撮影:STARTUP CITY SAPPORO

十勝はどう変わると思うのか日本はどう変わるのか

HOSPOが軌道に乗ってくると、国内外から会社が移転したり支社が増えて人口が増えますよね。これは大樹町だけにとどまらず、十勝や北海道全域だと考えています。

人が増えると、教育や観光も盛り上がりますよね。北海道の主産業である農業や漁場とのシナジー効果も相まって、宇宙産業が北海道の新しい基盤産業の一つになるだろう思っていて。自動運転の実証実験が行なわれたり、家畜の糞尿からエネルギーが作られて熱利用されたり…一番最初に恩恵を受けられますよね。

日本にとって北海道が、宇宙開発の先進地になると良いなと思います。HOSPOの強みって、民間宇宙開発であることだと思うんですよ。もちろん国などとも協力しながら、民間ならではのオープンさとフットワークやスピード感で、さまざまな実証やコラボレーションを最初に実行できるチャレンジの場になると良いなと思います。宇宙は北海道の希望だと思っています。みんなで宇宙を産業として育てていけば、明るい未来が待ってると思っています。めっちゃおもしろい土地にしていきたいですね!  

最後までお読みいただき、ありがとうございます!
本記事は、2021年9月にnoteで公開されたものになります。
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