東京生まれ・東京育ち、都内の大学で機械工学を学んできたAさんがたどり着いたのは、日本最大規模の牛の牧場を経営する会社でした。酪農の求人に応募する動機は?北海道移住への抵抗はなかったのか?入社1年が過ぎたある1日を追いかけました。
Aさんの朝はまだ薄暗い時間からはじまります。牧場までは車で30分。4時までに牧場に入り、搾乳(牛の乳搾り)作業の準備を開始し、作業スタートは4:30です。Aさんが就職した会社は、牛の飼養頭数が3万頭以上の日本トップクラスの牧場経営会社。同社は作業効率を高めるために、完全縦割り組織でAさんの配属先は酪農牧場の搾乳部門です。
同部門はその名の通り、牛の乳を搾る専門集団で、日本最大級のロータリーパーラーと呼ばれる回転式の搾乳機械を活用することで、搾乳作業の効率化を図っています。自動化により、作業員の手作業は減りましたが、その分、牛の観察が行き届くことで、牛の病気を減らし、搾られる乳量の増加と安定化のほか、生乳品質も高まりました。
機械やデータ管理など、一昔前の牧場イメージとは異なる会社に新卒入社したAさんは、東京生まれ東京育ち。東京の大学では機械工学を学び、大学院での研究テーマは「光を用いた水溶液の濃度の可視化」でした。「幼い頃から“ものづくり”が好きで、ロボットや工作機械を見ると興奮します。大学時代はフォーミュラータイプの自動車を製作するサークルに所属していました」と振り返るAさん。
そんなAさんが、なぜ牧場会社を選んだのか。
「私が農業に足を踏み入れたのは、とある番組でした。それは、人間の根幹である“食”を支える農業が変わりつつあるというものでした。機械分野を学んでいましたが、物理科学寄りでしたので、自動化・省人化が進む現代の農業であれば、生かせられると思い立ち、最先端の農業を実践している企業を探し、たどり着いたのが現在の会社でした」(同)。
新卒採用の求人サイトを見ている中で、「ここしかない」と求人ページに釘付けになったそうです。機械工学に没頭してきたAさん。一度、決めるとのめり込むのに時間はかかりません。
農業、畜産、肉牛、酪農と求人サイトで見つけた会社の外堀である業界内情を調べ上げ、将来性や成長するためには何が必要か。自分が学んできた知識の延長線上にそれはあるのか。などなど、徹底的に調べ上げ、最終的には「自分が学んできたことが活きる」と判断して、応募したそうです。
あれから1年。Aさんが入社した会社は、単なる牧場会社ではありませんでした。牛の受精卵やゲノム、データを活用した現場改善など、ITや生物学研究にはじまり、自動化を目指した機械導入や、バイオガスプラントといった農業を起点に幅広い事業を手掛けています。
「現在は、現場作業をしながら、牛の乳房炎の炎症評価をする画像解析プログラムを勉強中です。まだ入社して1年ほどですが、チャレンジできる環境が整う会社であることを肌で感じています」とやる気に満ちているAさん。
とはいえ、はじめての一人暮らしで、且つ、東京から北海道に移住したAさんの田舎暮らしは……。
「最初の半年は、朝が早いので仕事後は夕食をとってすぐに寝る毎日でした。徐々に仕事にも慣れて、同僚や先輩と食事にでかけたり、休みの日は車でドライブしています。何より、東京時代は、でかける場所というか誘惑が多かったので買い物に行ったり、何かと友人と会っていたので、一人で過ごす時間が少なかった気がします。
いまでは本を読む時間も増え、心にゆとりもできました。晴れた日は、車で30分も走らせると広大な大地(平野)が広がり、山の上からの眺めは最高です。嫌なことも一瞬で吹き飛ぶだけじゃなく、思考する時間がとれるので、今ではそうした仕事のことや将来のことを考える時間が何ものにも代え難いんです。ただし、アウトドア以外の遊び場所が少ないので、今は釣りやスノーボードなど新たな趣味を模索中です」。
Aさんのはじめての田舎暮らしは、遊び場の少なさ以外は順風満帆のようです。
搾乳の一日Aさんが勤める牧場では、牛から生乳を搾る「搾乳作業」は2交代制です。Aさんが所属するAMチームと呼ばれる早朝からの作業スケジュールを紹介します
搾乳道具の準備と搾った生乳がタンクへ入る配管のセッティングをします。ここで注意!【配管セッティングは最重要!】搾った生乳(ミルク)がタンクに入るまで通る配管の動線の確認は、最も注意をはらいます。食品である生乳の品質を守るため、配管ルートが変わり生乳が漏れたり、温度調節を間違えると生乳品質が変わってしまいます
搾乳作業員7人全員が集まり、作業開始前にミーティングをします。パーラー管理者を中心に配管のダブルチェックの確認のほか、装備チェックを行います。
搾乳作業は、7人が6つのポジションにわかれて行います。搾乳(作業)時間は、4;30-10時までの5時間半。途中10分間の休憩を挟む。搾る牛の頭数は驚きの1500頭です。
【6つのポジション】
1)牛を入れる作業(牛入れ)ここで大切なのは、大声をあげない、牛をたたかないこと。理由は牛にストレスを感じさせないためです。ストレスを感じると絞れる量が減ったり、お乳が出ない牛がいるからです。
2)前搾り決められた回数を絞る。乳汁の状態をチェック!入汁を確認し、悪い菌に侵された生乳が出ていないかを確認します。生乳は人が飲む食品です。悪い状態の生乳(異常乳)を出荷すると人への影響や、菌に侵され病気となっている牛にとっても、ほっとけば乳房炎などの病気につながるなど影響を及ぼします。
3)プレディッピング次亜塩素酸系消毒薬を乳頭に塗布し、付着している雑菌を消毒。塗布後30秒経過後、「ふき」を行います。
4)牛の乳頭ふき 2人きれいにふく、きれいにふいておかないと、不衛生な状態でミルカーを装着することで、異物混入生乳となる可能性が高まります。
5)付け=ミルカー装着係ミルカーのスイッチを短く押とミルカーが始動します。ミルカー本体を乳房の下に持って行き、ライナーを垂直し、乳頭を吸い込ませます。
6)ポストディッピング(搾乳後の乳頭に消毒液をつける)消毒液は、根本まできれいにつけます。きちんとつけないと消毒者の効果が薄くなってしまう。消毒液には消毒と保湿の効果があります。
③と同じように道具の片付けと機械(ロータリーパーラー)や設備の清掃。生乳を保管するタンクや配管のチェックと清掃して終了です。間違えのないよう、ダブルチェックを行った後は、食品(生乳)を扱う道具を、すべて掃除して片付けます。搾乳場所は衛生管理場、搾乳終了後、必ずキレイに清掃します。
搾乳場での作業を終えると事務所に戻り、記録をつけます。なにか問題があった場合は必ず、上長に報告します。
12時半までに朝と同じ準備をして搾乳作業を12時半から開始します。作業は、午後チームと交代する14時45分までです。
14;45~15時までにPMチームと引き継ぎ。乳房炎チェックや午後にあったすべての事柄を引き継ぎますその後は、装備を清掃して片付けます。
15時にすべての仕事を終えて帰社します。
夕食をとったあとは、読書をしながら就寝。次の日に備えます。
いかがでしたでしょうか。Aさんの1日はあっという間です。多くの作業は、機械による自動化と分担制により、シフトによりしっかりと休日のとれる仕事になりました。これが分担制でなければ、餌やり、ふん尿処理、寝床の清掃、牛の治療(実際は獣医さんが行いますが、日常の牛の観察は欠かせません)など、あらゆる業務をこなさないといけません。
企業として酪農を経営することで、人の労働負担を減ることによる人災が防げ、それにより乳品質の安定と牛の体調保全にも繋がるのです。もちろん、頭数を減らすることで人の負担を減らすという酪農経営もあるでしょう。Aさんの場合は、大学で学んだことをより高度化して、将来の酪農に寄与したいという想いから大規模牧場を運営する会社に入社しました。今回は、企業経営による酪農の姿を記しましたが、次回は家族経営による酪農の姿をお伝えできればと思います。
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